毛糸玉
『まって!』
もう一度叫んだ時だった。
黒い。
黒い着物に身を包んだ男性がそこに立っていた。
背中をこちらに向けて、
先ほどまで私が追いかけていたネコに手を差し伸べていた。
「いいこだ…。」
そして黒い髪を揺らして、
こちらにゆっくりと顔を向ける
目と目があった。
黒い、深い深い、瞳だった。
白く透き通る肌に、
形の整ったキレイな唇。
まるで、精気を感じられないかのような、
とてもキレイだとおもった。
「可愛らしいお嬢さんだ。」
「…っ!」
私をみて
口元に弧を描くその男性に心臓がまた跳ねる
「俺のネコが…連れてきてくれたのかな…。」
白く長い指でネコの顎を撫でる。
ネコは目を細めて気持ちよさそうな顔をした。