毛糸玉
珍しく私の名前を呼ぶ声がきこえる
甘ったるい声がやけに耳に残って体の火照りがやけにイヤに感じる
ふらふらとする思考の中、
腰に回されている彼の腕がふいに力が入る
「‥今日の君はやけに消えてしまいそうだね」
そしてより強い力で引き寄せると
「何故か胸がざわついてならないから、今日はここにお泊り」
私はその言葉に口元が緩んだ
やけに素直なのは私ではなく彼なのではないのか。
「イヤな話、
家に帰っても1人なのならここにいるといい。」
その言葉がやけに冷たく感じた
確かに家に帰っても“誰1人”いやしない。
幼い頃に亡くした、
最初から知らない、
‥なんて悲劇的なことではない。
元々両親とも忙しくたくさんの地域を行ったり来たりする。
だから今の部屋を一人暮らしように借りてくれた。
としの離れた兄が1人いるが彼も違う地域で1人で住んでいる。
それを知ってか、彼のその“優しさ”が少しくすぐったかった
「今日は‥一緒にいる‥」
着物を掴んでそっと呟けば、
いつもの鼻で笑う声が聞こえる
「‥何されても逃げんなよ」