毛糸玉
けれどそこにはいつもの様に黒い猫が一匹、
ぽつり、と丸まってすやすやと寝ていた。
「クロ。」
いつの間にかこちらに向いていたこの猫の主の呼びかけに
この猫は反応をしてムクリと起き上がった。
ニャーンと一鳴きすると走って源さんの元へと行く。
そして目の前に愛らしくちょこん、と座る猫を
白く繊細な指で優しく撫でていく。
思わずじっと見つめてしまい、クツクツと笑う源さんの声にすら気づかなかった。
「キミはここへ来ると、かならずそうやって俺の指を見るねぇ。」
自分が見つめていた事に気が付き、ギョッとすると、
案の定彼は目を細めて首を傾げこちらをみつめていた。
「見てなんかいません。」
「おや、そうでした?」
「目に入って来ただけです。」
私がムキになってそうこたえると、
源さんは起き上がって、古臭い灰皿に葉巻をおき、
こちらへと歩き出した。
「けれどキミの視線は、熱いねぇ。」
凄艶な笑みを浮かべ、
耳に残ってはなくならない低い声。
そして何もかもわかっているかのような黒い瞳。
ゾクッと背筋にイヤなものが走る感覚をおぼえた。