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「その手の話は女同士、澪にでも話せばいいだろ。俺を巻き込むな」
「ちぇ」
ますますつれない。
先輩はそう簡単に言うけれど、澪には事情があって話せないのに。
こうなったら、やっぱり帰ってからママに相談かな。私の母親であるママから女らしさなんて、教授はもとより参考にすらならなさそうだけど。
そんなことを考えながら夜道を先輩と歩く。
道の角を曲がってお店屋さんが並ぶ通りに出ると、街灯と店先の灯りで本当に一人でも平気なくらいだ。
「先輩、あたしバスに乗って帰りますからここら辺までで大丈夫ですよ」
「じゃあ、バス停までな」
そうしてバス停まで律儀に付き合ってくれるのだから、先輩はやっぱり面倒見がいい。
「あれ、奈々子、亮佑さんも」
そんな声が向い側からふいに掛かる。
聞き覚えのある声、この声は陸だ。
顔を上げればそこには思った通り陸が居て、しかしその隣には何故か貴一さんも……。
(きっ、貴一さんっ!?うそっ、こんなところで会うなんてっ!)
「こんばんは、奈々ちゃん」
「こっ、こんばんはー」
内心ですごく焦る私を他所に。
貴一さんはいつもの調子でへらりと私に笑いかける。その笑顔が心臓に悪い。
「彼氏とデート?」
「はっ!?えっ!?」
言われて思わず大声が漏れる。
だって、彼氏ってなんだ彼氏って。
まさか、先輩のこと誤解してる?
やだやだ嘘でしょ。私が好きなの貴一さんだって、貴一さんも知ってるじゃん。
「違いますよ、澪のお兄さんです」
そう言って陸がさらりと話に加わる。
私もこれ幸いとばかりにこくこく頷く。
「澪の家に遊びに行った帰りで、暗いから送ってもらってて」
と、言い訳がましくそう話す。
なんにもやましい事なんてないのに心臓が変にドキドキした。
すると貴一さんは少し意外そうな顔して、「へぇー」と先輩の方を見る。
「陸の友達の古川貴一です。よろしくー」
そう先輩に向かってにっこり笑う貴一さん。対する先輩は訝しげに「どうも」とそんな風に貴一さんに返事した。
一見、無愛想っぽい先輩だけど、その表情はどことなく貴一さんを警戒してるみたい。だって40過ぎのいい歳した大人が高1男子と友達だもんね。
言っちゃなんだけど私から見ても貴一さんは十分胡散臭いおじさんなのだから、先輩からすればもっとそう感じてるのだろう……。