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「ふたりはこんな所でどうしたの?」
話題を変えるようにそう聞いてみると、ふたりはご飯食べに行った帰りだそうで。
しかも、陸はこの後貴一さんちに泊りに行くのだそうだ。羨ましい。
「それじゃあね」
バイバイ。と手を振られ、貴一さんと陸が行ってしまう。貴一さんは平然としてて、相手にされてない感が虚しい。
いつもなら他の男の人と一緒に居ただけで「浮気厳禁」とか言ってぎゅーって私を抱き締めるのに。
(やっぱり、あたしの事なんて貴一さんはどうでも良いのかな……。
それか、貴一さんのなかでは私より陸の方が優先事項が上なのかも……、うん。そっちっぽいな……)
ご実家へ行ってお泊まりまでしてきたのに、陸>私な状態は継続中みたいだ。
「おい、行くぞ」
貴一さんと陸が去って行った後、ぼけっと突っ立ったままの私に先輩が声を掛ける。
その声にハッとして顔を上げると、先輩が呆れたように私を見ていた。その表情は全てを察してるみたいで……
「さっきの話。相手はあの人か」
(うわー、やっぱりバレてるっ!!)
バス停までの道のりを歩きながら確信を込めて尋ねられ、私はしどろもどろ。澪にだって教えてないのに、出来れば先輩には知られたくなかった。
「えーっと……、はい」
観念して項垂れると、先輩にぽんっと頭を撫でられる。
「幾つだ」
「41歳デス」
「……親父と同い年か」
先輩が呆れたように零す。
私はいたたまれなくてますます顔が上げられない。
「女らしさ以前の問題じゃないのか」
「うっ」
ごもっとも。
「……てか、やめとけ」
「なぁっ!?」
やめておけと言われ、その言葉にカチンときた私は、立ち止まって反射的に顔を上げた。
(どうして先輩にそこまで言われなくちゃいけないのっ!?あたしが誰を好きになろうがあたしの自由じゃんっ!!)
そう言い返そうとして。
けれど、心配そうに私を見る先輩の顔を見たらなにも言えなかった。
(先輩は意地悪で言ってるわけじゃなくて、あたしのこと心配してくれてるんだよね、きっと……)
いつも無口な先輩が、私なんかのためにそこまで言ってくれてる。
そう思うと、怒ることなんて出来なかった。
「ありがとう、ございます……。けど、たぶん無理っぽいです」
そう言ってへらりと笑う。
すると先輩は困った様な顔をしてもう何も言わなかった。
(歳上の人を好きになるって、そんなにいけないことなのかな……)
考えると胸がズキリと痛んだ。