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先輩とはバス停で別れた。
帰りのバスに揺られながら私は貴一さんとのことを考える。
(そもそも、好きになっちゃいけなかったのかなぁ……)
うんと歳上の男の人。
親子ほど歳の離れた好きな人。
どうして好きになったのかって尋ねられたなら、きっと「そこに貴一さんが居るから」としか答えようがない。
まるで登山家が山に登る理由みたいだけど。これが私の全てだ。
癖のあるくしゃくしゃな髪の毛も。
あの低い声も。
纏う雰囲気も。
優しいところも。
全部全部初めから大好きだった。
(きーちさん、きーちさん……)
バスに揺られながら、心のなかでぽつりぽつりと呟いてみる。
(好きなんだけどなぁ……)
好きで好きで、どうしようもなく好きなだけ。ただそれだけ。
そんな私の気持ちを知っててわざと弄ぶ意地悪なところも。
狡いところも。
後から知った貴一さんの駄目な部分も、全部ひっくるめて私は貴一さんのことが好きなんだ。
(年上を好きになっちゃ駄目だって知ってたのになぁ……)
私は本当に馬鹿だ。
不毛なことはママのお父さんとの恋を教えられてわかってたはずなのに。だから付き合うのも結婚するのも絶対同級生だって決めてたのに。
(普通の恋愛するはずだったのに……)
今では取り返しのつかないくらいあのおじさんのことを好きになっていたのだから、私はとことん救えない。
そんなことをぼんやり考えていたらバスは私の家のもうすぐそこまで来ていた。
停留所のアナウンスに、私は慌ててバスの降りるボタンを鳴らす。
課題の入ったカバンを忘れない様にしっかり握り、乗り過ごさないようにじっとバスが留まるまで待つ。
停留所に停まると、運転手のおじさんに挨拶してバスを降りた。
外はやっぱり寒い。
息を吐けば、白くなって空に消えていく。上を向けば夜空に浮かぶお月様が見えて、どうやっても貴一さんのことを思い出してしまう。
(けど、今日は一目会えたんだからラッキーだよね)
月を見上げながらそんなことを思う。
ネガティブなことを考えていても、乙女思考は案外ポジティブだ。