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オレンジ色の街

■ □ ■ □



『カレーが食べたいです。 古川貴一』

貴一さんから久しぶりにそんな文面のメールが届いたのは、一月六日のお昼前のことだった。


私はまだ冬休みだけど、貴一さんはお仕事始まってないのかなと心配になる。うちのママは今日から仕事始めだし。

それとも貴一さんは社長さんだから良いのかな。


(まぁでも、貴一さんに会えるならなんでもいっか)


そう気楽に考えて『了解です』と軽く返事を送る。


(シチューの時にお鍋買わせちゃったから使ってあげないともったいないしね、それに炊飯器も……)

そんなこと考える私って結構貧乏性。



『夕方にお邪魔しますね』

そう続けて送ると、『すぐきて』とひらがな4文字の文面が届いた。


「すぐきてって、すぐに来てってこと?」

思わずそう呟く。
すぐ来てだなんて、どうしたんだろう。

少しだけ不安に思いながら、簡単な身支度を整えて荷物をまとめて家を出る。

コート羽織ってマフラーは首にぐるぐる巻き。一番走りやすいブーツを履いて、駅までダッシュした。



そうして訪れた貴一さんの部屋。
途中カレーの材料買いにスーパーに寄り道してたから少しだけ遅くなってしまったけど。


部屋のチャイムを鳴らすだけでもなんだかとっても緊張する。
よくよく考えてみば、貴一さんちに一人で来たことなかった。前回もそのまた前回も貴一さんと一緒だったから……。


(部屋番号間違えてないよね……?あー、緊張する……)


部屋の番号を何度も確認して。
片手ではエコバックの紐をぎゅっと握り締めてこの緊張をなんとか誤魔化した。

震える指先で勢いよくチャイムを鳴らすと『はい』と少し掠れた貴一さんの声が聞こえた。


(なんか、すごくドキドキする……)

インターホン越しの、掠れた声に。
たった1日ぶりなのに。

私の心臓は馬鹿みたいにドキドキと鼓動を高鳴らせる。



「貴一さん……あたし、奈々子です」

『……奈々ちゃん?』


そう言って、少しの沈黙の後にガチャリと鍵が開く音。
玄関のドアが開けられて、貴一さんがいつもの様にへらりと笑って私を迎い入れてくれた。



「本当に来たんだ?」

掠れる声で、微かに笑われる。



(なにその言い方……)

貴一さんが来てって言うから来たのに。
酷く意地悪な物言いに、反射的にエコバックの紐をぎゅっと硬く握る。


怒っちゃダメ、傷ついちゃダメ。
そう自分に言い聞かせる。



「やだなぁ〜、貴一さんがすぐ来てって言うから来たじゃないですかぁ」

そう言って、へらりと笑う。

このままいつもみたいに優しく笑い返してくれたらいいのにと、そんなことを思う。


「そうだね」

けれど。微笑みどころか、私の顔も見ずに何処か他人事の様に貴一さんはそう返事をするだけだった。

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