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貴一さんが考えたそのお粗末な口実のおかげで、この日の夕飯はカレーライスになった。
そんなカレーライスを貴一さんは美味しい美味しいと何度も言って嬉しそうに食べてくれて、おかわりまでしてくれた。
私もお昼の時は貴一さんのせいでばたばたしてたから結局ご飯食べられなくて、そのかわりに夕飯のカレーはがっつり食べた。
そんな私を見て貴一さんが「奈々ちゃんて食べっぷり良くていいよね」と微笑ましそうにそんなことを言う。
「あたし、もしかして色気ない?」
色気より食い気的な?
尋ねて、答えを聞く前に自分でも自覚してしまう。女の子らしくなるっていう今年の目標どこ行ったっけ。
「可愛いからいいんじゃない?」
と、にこりと優しく微笑みながら貴一さんが言う。なんか子ども扱いされてるみたいで腑に落ちなかったけど。
「この後どうする?」
「え?」
「泊まってく?」
「〜〜っ!?」
不意打ちで訊かれて絶句。
泊まってく?の言い方がエロ過ぎる。
一応前回のこともあって、そういうことも予想していたから荷物にはお泊まりに必要なものも入ってるけど。
それじゃまるで最初から期待して来たみたい。まぁ実際そうだけど。
でも正直にそう言ってしまうのはちょっと恥ずかしい。
「どーしよーかなー」
わざとらしく呟くと、貴一さんがクスクス笑う。きっと私のことなんて全部お見通しなんだ。
「終電までには決めておいてね。今日はお酒呑んじゃったから車で送ってあげられないし」
貴一さんが優しく言う。
狡いおじさんのくせして、こうして逃げ道を作ってくれるから貴一さんのことはどうにも嫌いになれない。
私はその言葉にちょっと恥ずかしくなりながらも頷いて、カレーを完食した。