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駅の地下街にあるファーストフードで簡単に昼食をすませる。そのあとに向かった先は、ここら辺で一番大きなシネコン。
貴一さんは観たい映画があったらしくて、今日はそれを観に行くのに私も誘ってもらったのだ。
「陸君誘ったんだけどねー、澪ちゃんと一緒に観たって言われてさぁ」
「あー、澪は映画好きだしね」
わざとらしく拗ねる貴一さんに私もクスクス笑いながら応える。
心のなかでは澪と陸に感謝。と同時に、貴一さんのなかで陸>私な構図が少しだけ面白くないかもと思った。
始まった映画はストーリーが静かに進む少し難しい大人向けの映画。面白いけど、あまりにも起伏の少ないストーリーに少しだけ退屈かもと思う。
きっと貴一さんみたいな大人の人からみれば理解出来る内容なんだろうな……。
そう思ってスクリーンから目を離して、隣に座る彼を盗み見る。
すると、
「すーすー」と貴一さんは小さく寝息を立てていた。
(子どもか!!)
思わず心の中でそうツッコミを入れる。
貴一さんは見た目に反して、中身は結構子どもっぽい。まあ徹夜でゲームとか言ってるしね。
かくんと頭がこちら側に寄ってきて彼の髪が微かに私の肩に掛かる。癖のある貴一さんの茶色い髪。
ふわっと柔らかそうで、いつも触ってみたいってこっそり思っていた。
つい出来心で、そーっと手を伸ばして触れてみる。もふっと、見た目通りな感触に思わずにやけそうになる。
(うわ〜〜っ、なにやってるのよ、私の変態!!)
途端に自分の行動が恥ずかしくなって、すぐに後悔する。気付かれないようにそのままそっと手を離そうとした。その時。
「えっち」
そう小さく呟いて、貴一さんが私の手を握った。
「〜〜っ!?」
(なんで!?起きてたの!?いつから!?)
びっくりして思わず声を上げてしまいそうになるものの、それも貴一さんの空いてる方の手で抑え込まれる。
「し〜〜っ」と唇のジェスチャーで貴一さんは私に静かにするように伝える。
そうだ。ここ映画館だった。
私がコクコクと頷いて返すと、貴一さんは満足そうににこりと笑って口から手を離してくれた。
けれど、もう片方の繋がれた手は、映画が終わるまで離してはくれなかった。