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「……ていうか、電話よかったのかな」
言いながら手の中にあった貴一さんのスマホを返した。
「いいよ、別に。いつもの事だし、またすぐ掛かってくるよ」
「ふーん」
しれっとしてる貴一さんに、私はなんだか複雑な気分。
(つまり、いつも電話でやりとりしてるわけだ……松嶋やよいと……)
可愛くないけど、どうしても心が拗ねてしまう。
「奈々ちゃん、どうしたの?」
「べつに……」
どうしたの?だなんて、どうしておじさんはこんなに鈍感なのか。
(それとも、わざとあたしのこと弄んでるのかも……)
そんなことを思ってると、本当にすぐに貴一さんのスマホがもう一度鳴り出した。
相手はもちろん『松嶋やよい』で……。
「ほら、きた」
と、貴一さんは私に呟きながらすぐに電話に出た。
「もしもし、やよいちゃん?どーしたの?」
(『やよいちゃん』だって……なにさ、貴一さんのばーか、ばーかっ!!)
優しい声を出して電話に応える貴一さんに私はなんだかとってもムカムカした。
デレデレしてる貴一さんなんて大嫌い。
「なに?いつものお誘い?やよいちゃんてやっぱり僕がいないと駄目だよねぇ」
くすりと笑みを含んで話しながら、貴一さんは自然な動作で私の頭をぽんとひと撫でしてからお部屋のバルコニーに出て行ってしまった。
撫でられた嬉しさよりも、貴一さんの口から発せられたアダルトな会話の断片から嫌なことばかり想像してしまって胸が苦しい。
(ゲームより女遊びいっぱいしてる方が百年の恋も冷めるよ、貴一さん……)
そう心の中で貴一さんの背中に向けて呟く。
40過ぎのおじさんのくせして、貴一さんは綺麗な背中をしている。
まるでモデルさんや俳優さんみたいな精悍な体つきに、男前だなと思わず見惚れてしまう。
(って、あたし冷めてないか……)
こんなになっても冷めない恋心。
背中ひとつでくらりときちゃう程度に、私は救いようのない馬鹿で。
(よし、電話終わったら後ろからあの背中に思いっきり抱きついてやろう)
なんて。
ほんとに救えない。