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「きーちさん、電話終わった?」
「終わったよ。あのさ、奈々ちゃ」
「貴一さん!後ろ向いてっ!!」
電話を終えて戻って来た貴一さんに私は話も遮るようにそうお願いした。
「うしろ?」
「うん、後ろ向いてて!」
ね。と可愛い子ぶってそうお願いすると貴一さんは不思議そうな顔したままくるりと後ろを向いた。
「ていっ!!」
「おわっ!?」
向けられたその無防備な背中に、私は思いっきり抱きついた。
どーんっと思いっきり飛び込むと、貴一さんがぐらりとよろけた。けど倒れることはなくてちょっと前のめりになっただけ。
「なっ、奈々ちゃんっ、なにしてんのっ?」
「なにって、わからない?」
「え?う〜ん……っ、おじさんもう歳だしおんぶはちょっと……」
「おんぶじゃないよっ!!抱き付いてんのっ!!」
ぐいっと体をくっ付けると、貴一さんは可笑しそうに肩を揺らして笑った。
「なに?機嫌治ったの?」
「……べっ、べつにー」
笑いながら言われ、私は恥ずかしくなって顔を貴一さんの肩に埋めた。
さっきまで不貞腐れてたのにすぐこんなことしちゃったのはちょっとだけ恥ずかしい。
「奈々ちゃん、もしかして誘ってる?」
「へっ!?なに言ってんの!?このエロおやじっ!!」
からかう様に言われて、私は顔を真っ赤にして否定する。
誘ってなんかないし、抱きついただけだし。……って、その行為が誘ってるみたいか。
そう思いながらも、この背中を手放すのはどうしても惜しくて、抱きつく体を離せない。
(お風呂屋さん行って来た後だからシャンプーの匂いがする……)
同じシャンプーを使ったはずなのに貴一さんの匂いはどうしてこんなに落ち着くのかな。ずっと抱き付いていたいと思えるくらい。
「奈々ちゃん、あのさ、」
「ん?」
「……気付いてないと思うけど、当たってるよ?それかわざと当ててるの?」
「なにが?」
「胸」
「〜〜っ!?」
しれっと教えられて、私は声にならない悲鳴を上げて貴一さんからばっと体を離した。
(おっぱい当たってたっ!?やだやだやだあたしは痴女かっ!?恥ずかしくて死ねるっ!!!!)
「奈々ちゃんって、結構大っきいよね」
「ぎゃぁぁっ、言わないでっ!!」