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■ □ ■ □



その日の夜。

貴一さんの実家から私宛に荷物が届いた。


ママと一緒に荷物を開けると、なかには小ぶりの綺麗なお茶碗が二つ。それから梅干しやら大根の漬物とか野菜なんかが入っていた。


この素敵な贈り物には私以上に、ママが大感激。
前に貴一さんの実家で食べたお漬物が美味しかったって話をしたら、ママが食べてみたいって羨ましがってたから。


ママからはさっそく貴一さんの実家にお礼の電話をする様に言われて、あと手紙まで書く様に言われた。


「メールとかじゃダメなの?」

「ダメダメ!メールなんて。電話しなさい、それに手紙もね。明日レターセット買ってきてあげるから内容も考えときなさいよ」

「はーい」



どうしてメールじゃなくて手紙の方がいいのかな……。

大人の世界のルールはよくわらかないけど、とりあえず頷いて応えるとママは満足気に微笑んだ。




「それにしても古川さんのご家族は凄いのねぇ」


頂いたお茶碗を見ながら、ママがうっとりとそう零す。

「家族」という単語が出てどきりとした。ママの言葉に相槌打ちながら、私は頭の隅で今日あったことを思い出していた。

今日仁さんと会ったことはママにはまだ話せていない。もちろん今度如月の家にお邪魔することも。


(だって、なんとなく言いづらいんだもん……)


大人の世界も難しいけれど。子どもだって子どもなりに色々考えるわけで……。

言った方がいいのもわかっているけど、どうしても話せない。複雑な心境だ。




「あたし、電話してくるね」


そう言って、逃げるようにリビングを出て自分の部屋に戻った。

部屋に入ると、言われたように貴一さんの実家に電話して藤子さんにお礼を伝えた。

そのあと、貴一さんにも電話をしていた。




『もしもし?奈々ちゃんどうしたの?』


電話越しに聞こえる貴一さんの声にきゅんと胸がいっぱいになる。今朝も話したばかりなのに、こんなに胸がいっぱいになるくらい声が聞きたくなっていた。


「今日ね、貴一さんちから荷物が届いたの」

『焼物とか野菜ばっかりだったんじゃない?迷惑じゃなかった?』

「ううん。嬉しかったよ、凄く……」

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