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心臓が止まるかと思った。
頭が、身体中が、沸騰しそうなほど熱い。
「きっ……、聞こえなかった……」
よく聞こえなかったと絞り出すだけで精一杯。
心臓の音がうるさくて、本当に貴一さんの言葉がよく聞き取れなかった。
「好きだよ」と聞こえたと思ったのは私の都合のいい幻聴だったのかもしれない……。
「もっ、もう一回言って!」
『だーめ』
必死にお願いするも、貴一さんにさらりとかわされる。
ダメと言われてがっかりする私に、電話の向こうでは貴一さんが愉快そうにクスクス笑っている。どうしたってこのおじさんには敵いっこないんだ。
『じゃあね、おやすみ』
「うー……、おやすみなさい……」
本当はまだお喋りしていたかったけど、渋々電話をきった。
通話を終えたスマホをベッドに放り投げて、私もベッドにぼふんと身を投げる。
胸に手を当てると、心臓がまだドキドキしてる。顔も身体中も熱くてたまらない。
(あれ本当に、「好きだよ」って言ってくれたの、かな……?)
さっきの会話をぐるぐると何度も頭のなかで思い返す。
受話器越しに聞こえた貴一さんの声は本当に小さくて小さくて。
『好きだよ』
と、そう言った気がしたのは、たぶん私の妄想かもしれなくて。ちゃんと大きな声で言ってくれなかった貴一さんはやっぱり狡い大人で……。
悶々と考えながら「あー」と呻きながらベッドにもんどりうつ。
(きーちさん、きーちさん……)
目を閉じるとすぐにあの大好きな顔が浮かんでくる。
くしゃくしゃなあの柔らかい髪に触れたいし。あの大きな背中に抱きつきたくなるし。キスだってしたい。
(って、変態かあたし……)
恥ずかしい妄想にぶんぶんと頭振る。
ベッドに身を沈めてまくらをぎゅーっと抱きしめた。