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「奈々ちゃんは金平糖好きなの?」
「うん、大好き」
金平糖は小さい頃から大好き。
星屑みたいで綺麗で、可愛いから。
口に含むとさっと溶けて、口の中にお砂糖がざらっと広がるのがなんだか面白いし。
……それに、金平糖はお父さんが小さい私によく食べさせてくれたってママが言ってたから。
「貴一さんは金平糖、好き?」
「うーん、奈々ちゃんが好きなら僕も好きかな」
私が尋ねると、貴一さんからはそんな言葉が返ってくる。私が好きなら自分も好き……って、なにそれ。
貴一さんの言葉になんだか無性に恥ずかしくなって、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
ちょうどその時。貴一さんの注文したコーヒーが運ばれてきて、テーブルの上にはコーヒーとケーキが置かれた。
その置かれた小さなチョコレートのケーキを見て、貴一さんが少しだけ不思議そうな顔をした。
「このお店ね、ケーキはサービスでついてくるんだよ」
「へぇ、そうなんだ。ありがとね」
不思議な顔した貴一さんに教えてあげると、貴一さんは納得したみたいにウェイトレスのお姉さんに小さく頭を下げた。
貴一さんがにこりと笑って頭を下げると、ウェイトレスのお姉さんは顔を真っ赤にしていた。
(たらしのおじさんめ……)
些細なことなのに、私はなんだかちょっとだけ面白くなかった。
「奈々ちゃんケーキ食べてよ」
「え?貴一さんいらないの?」
ケーキのお皿をこちらに寄せられて、きょとんとなる。
「もしかして、甘いもの嫌いなの?」
「食べれなくはないけど、嫌いというか苦手かな」
問いかけるとそんな返事が返ってきて、私はつきんと胸の奥が痛んだ。
甘いもの苦手だったんだ。
知らなかった。
(じゃあ、やっぱりバレンタインも……)
目の前のチョコレートケーキにフォークを刺しながら、そんなことを思う。
ケーキはなんとなく食べる気分になれなくて、フォークはぎゅっと握ったまま。
「甘いものは苦手だよ。
……けど、バレンタインにはチョコレート欲しいかな」
そう言って貴一さんがコーヒーに口をつけた。