1641


お店を出る時。

私の分の伝票は貴一さんに奪われてしまった。貴一さんが自分の分の会計と一緒に払ってくれて、奢られる形になってしまった私はなんだか居心地が悪かった。


(ケーキまで貰っちゃったのに、さらに奢ってもらうとか……)

なんだ悪いことしてる気分。
下手したら援交にも見えなくもないし。

こんな場面、誰かに見られてはいないかとハラハラしちゃう。

きょろきょろと挙動不審気味に辺りを見渡す私を余所に、貴一さんは慣れた感じでお会計を済ませていた。




「あの、やっぱり、お金……っ」

「いいって。男に恥かかせちゃ駄目だよ」


お店を出たところで、やっぱり自分の分を払うと申し出てみると、貴一さんにやんわりと断られた。お財布を取り出そうとした手も掴まれて拒まれる。

ここまでされたら従うしかなくて、「ご馳走様です」と小さく呟いた。



「はい。よくできました」

ぽふんと頭を撫でられる。
貴一さんは満足そう。

私は子ども扱いされてるみたいで、ちょっとだけ悔しかった。



「ねぇ奈々ちゃん、この後どうする?デートする?」

「こんな時間からデートって……、貴一さん本当に捕まるよ」


デートしようと貴一さんは言うけど、時刻はあと1分で20時になろうとしていた。こんな時間からスーツ姿の40過ぎの大人が制服姿の女子高生連れてデートだなんて、下手したら本当に捕まるかもしれない。

さっき援交に見えるかもって考えちゃったから余計にそんなことを考えてしまう。


(コート着てて制服見えなくても、鞄とかで学生ってわかっちゃうしなぁ)

デートという響きにはときめくけど、好きな人を犯罪者にはしたくない。



「うーん、それもそうだね。制服姿のままでもイケナイコトしてるみたいで、それはそれでそそるけど……」

「……へっ!?」

「よし!じゃあ着替えよう!」


なにやら怪しげなことを呟いたかと思ったら、貴一さんはとてもいい笑顔で宣言した。


(着替えようってなに!?まさか……っ)


そう貴一さんの次の行動を予測した時にはもうタクシーに乗せられてて、そのまま夜の街へと車は出発していた……。

< 136 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop