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そんなこんなでイザベラさんに見送られてお店を出る。時刻はもう21時を少し過ぎた頃だった。
「レストランもホテルも無しですからね」
「はいはい。ちゃんと家に送ってくよ」
私の言葉に、貴一さんはわざとらしく諦めたようにへらっと笑って返した。タクシーの運転手さんに行き先を告げて車が出発した。
そうして約束通りにきちんと家の前まで送ってもらった。
「貴一さん、あのね」
「ん?」
「この服、ありがとうございました」
別れ際。怒るのはやめて、ぺこりと頭を下げた。
ちょこっとエロいこと言われたりもしたけど、それはそれ。このお洋服は素直に可愛いと思うし、わざわざ買ってくれたことは嬉しかった。
「あのね、夜のデートは援交みたいでちょっと嫌だけど……、明るい時間なら貴一さんといっぱいデートしたいよ」
思い切ってそう告げると、貴一さんは少し驚いた顔をして、それからすぐにくしゃりと笑った。
「うん、今度は明るい時間にデートしようね」
そう言って目じりを下げて笑う貴一さんの表情に、胸の奥がかぁっと熱くなる。
(若く見える貴一さんでもやっぱり年相応に皺もできるんだ……)
目じりの優しい皺を見て、いつもは貴一さんと年の差を感じることは嫌なのに、今はこの皺がとてもとても愛おしく思えた。
無性に愛おしくて堪らない。
(あ。キスしたい)
そう思うと同時に。貴一さんの黒のコートを無意識にひっつかんでいた。
ワンピースと合わせて買ってもらった靴はヒールが高くて、背伸びしなくても平気だった。
それは、掠めるような短いキスだった。
唇が離れた時。貴一さんはなにが起きたのかわからないみたいな呆然とした表情をしていて。
惚けたみたいに、唇は半開き。零れた白い吐息は、冬の暗闇のなかに溶けて消えていった。
「カフェの時の、しかえし」
「……まいったね」
コートから手を離すと、貴一さんは照れてるみたいに苦笑いしながら口元を手で隠した。
「じゃあねっ!おやすみっ!!」
照れてる貴一さんの表情に、私も無性に恥ずかしくなって。すぐにくるっと背を向けて逃げるように家の中に入った。