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貴一さんへ用意したバレンタインのチョコは、茶色の小さなマカロン6個。

コーヒー味とチョコ味の2種類を3個ずつ綺麗な箱に詰めてラッピングした。
一応甘すぎないように工夫もしたし。甘いのが苦手でも大丈夫だと思う。



(今日ほんとに会えるかどうかもわからないけど)

メールの返信もないし、どこで何時に会おうとも約束もしてなかったから。もしかしたら無駄になるかもしれない。

鞄の中に入れて持ってきているマカロンのことを考えるとまた溜息が零れそうになる。



教室のなかはこの甘いイベントのせいで、朝から女子も男子も妙にそわそわしちゃってる。

親友の澪は無事ザッハトルテを完璧に作ることに成功して、陸に渡すことが出来た。しかも陸は陸で、澪に逆チョコなるものを用意してて。

ラブラブなこのカップルは、今の私ではもう目の毒って感じ。


(こういう時なんて言うんだっけ……?あぁ、そうだ。リア充爆発しろ、だ。澪は爆発しちゃ駄目だけど……)

なんて思ってしまう程度に心は僻んでしまってるから。





「奈々子は本命チョコとか渡さないの?」

席に座ってぼんやりしていると、不意にクラスメイトの日向ちゃんにそう尋ねられる。


「えー?あたし?ないない、みんな義理チョコだよー」


そう笑って言い返す。

友チョコ様に多めに用意していたチョコのクッキーを一つあげると、彼女はさっそく包装のナイロンをぺりぺりと開けてクッキーを頬張った。



「奈々子って彼氏いないっけ?」

「ないない。彼氏いない歴イコール年齢ですよー」

「まじで?あんたモテるじゃん!なんで彼氏作らないの?」


彼氏作りたくても、本命が振り向いてくれないのよ……とは言えない。

根掘り葉掘り聞かれても困るから「あたし全然モテてないって」と笑って返す。


「でも、3年のなんとかっていうイケメンの先輩が奈々子のこと好きらしいって結構な噂になってるよ。告白されるかもだよ」

「ちょっ、なんとかって誰よ」


なんとか先輩とか、謎過ぎて笑える。
それに私のこと好きとか……。




「先輩にもチョコ渡したら?」

「やだよ、顔も名前も知らない人に」

「えぇ〜、顔はイケメンなのにもったいない。私だったら、好きって思われてたら好きになっちゃうかも」

「いいよ、あたしは」


私はそんな風に思えないから。



(だって、あたしのこと好きって言ってくれる良い人に、あたしなんかはもったいないから……)


そんなことを心のなかで呟く。
今まで何人かの男の子に告白されたことはあったけど、全て断ってしまっていた。

いつも心のどこかでそんな風に思ってたから。



(あぁ、そっか。だから私は貴一さんのこと好きなのかも……)


貴一さんは私のこと好きって言ってくれないから……。
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