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帰りのHRの時間になる頃。朝から降り出していた雨は雪に変わってて、あちこちに白く積もっていた。
その様子に、なんだか貴一さんの実家の雪景色を思い出してしまう。
雪が綺麗だった。
真っ白で、汚れてなくて。
雪なのに、暖かかった。
(……そういえば、金平糖のポットは完成したのかな)
教室の窓から小粒の雪を眺めてたら、ふいに前に貴一さんから教えられた話を思い出す。
貴一さんのお父さんの隆雅さんが金平糖のポットを作ってるって言っていた。
あの話を聞いてからもう数日過ぎているから、もう完成しているかもしれない。
(フルカワの新作ならそれなりにニュースになるだろうから、ネットで調べたらなにかわかるかも)
そう思って、先生に見つからないようにスマホをそっと取り出した。
(……でも、貴一さんからまた直接話聞きたいな)
話を聞きたい。
また会いたい。
そんな思いばかりが胸を占めて、結局スマホは画面を閉じて定位置のポケットに戻した。
また会いたいだなんて、連絡が途絶えた今となっては不毛な思いなのかもしれないけど……。
HRを終えて帰りの用意を済ませ、ついでにメールボックスも電話の着歴も何度も確認してみる。
貴一さんからの連絡はやっぱりない。
こうやって傷付いてしまうのももう何度目かもわからない。
(あぁもうっ、きーちさんのばーかっ)
苛立ちと不安と寂しさが混ざって泣きたくなる。
窓の外はまだ雪が降っていた。
こんな雪の中を帰るのは億劫だけど、帰るしか仕方なくて、のろのろと教室を後にした。
(チョコ、もう渡せないかな……メールも電話もないけど……)
とぼとぼと廊下を歩きながら鞄の中のチョコのことばかり考えた。
お気に入りの赤い傘をさして学校を出る。傘に雪が滑って落ちるのがなんだか面白くて、傘をくるくる回しながら歩いた。
校門を潜ったところで、ふいに私は傘を回すのをやめて立ち止まった。
……見たことある外車が止まっていたから。
「奈々ちゃん」
声を掛けられて反射的に横を向くと、校門の壁のところに貴一さんが立っていた。傘もささないで。
「きいち、さん……」
「久しぶりだね。チョコ貰いに来ました」
いつもと変わらない笑顔。
少し掠れた低い声。
(狡い……)
顔見ただけで、泣きそうになった。