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「メール送ったんだよっ?電話もしたのにっ……」

「ごめんね。水没させちゃって使えなかったんだ」


貴一さんは悪びれる様子もなく言う。こっちがどんな思いしてたかなんて知らないくせに。


「でね、チョコ貰いに来たんだけど」


まだ言うか。このおっさん。
悪びれるどころかチョコの催促までする貴一さん。ひらりと差し出された右手をぎっと睨みつける。



「……ちゃんと、用意してありますから」

なんだか悔しいけど、素直にそう答えた。やっと会えたんだから喧嘩なんかしたくなかったし。

すると私の言葉に、貴一さんが小さな子どもみたいに嬉しそうに顔を綻ばせた。



「車、乗って。送ってくよ」

「ありがとうございます」


促されて貴一さんの車に乗る。

貴一さんは雪のなかで傘もさしてなかったから、車に入るとコートや頭についた雪が暖房で溶けて濡れてしまった。



「なんで傘さしてなかったの?風邪引いちゃうじゃん」

「雪で傘なんてささないよ」


そう答えたのは貴一さんが雪国育ちだからか。単なる変人なのか。


「もういい歳なんだか、ほんとうに風邪引くよ」

「あはは、奈々ちゃん厳しいね」


私は叱ってるつもりなのに、貴一さんはなんだかやたら楽しそうによく笑う。
そんな貴一さんの表情に私もなんだかもう怒る気にもなれなくて、一緒になって笑ってしまう。

結局、いつもの貴一さんのペースに巻き込まれてしまったわけで。



車は学校から出発し、私の家の方向へと向かって安全運転で出発した……。


途中。ゆっくり話せるようにか、適当な場所の公園の駐車場に貴一さんは車を止めた。



「寒くない?なんか温いもん買ってこようか?」

「へーきだよ。それよりチョコ渡したい」

言いながら鞄を漁ってラッピングされた箱を取り出す。そのまま貴一さんにはいっと手渡すと、貴一さんは嬉しそうに「ありがとう」と私の好きな笑顔でそうお礼を言ってくれた。



「開けていい?」

「どうぞ」


しゅるっとリボンが解かれる音。
緊張でドキドキと胸が高鳴る。喜んでくれればいいけど。


「……これって、マカロンってやつ?」

箱を開けて、貴一さんがきょとんとした顔をしてマカロンをじっと見つめた。


「うん。マカロン……あの、マカロンだけどちゃんとチョコだから……」


(やっぱりバレンタインにマカロンって変だった?普通のチョコの方が良かった?)

貴一さんの反応が怖くなってしどろもどろに説明する。マカロンなんてやっぱりやめた方が良かったのかもと心の中で後悔。



(だって貴一さん、マカロン食べたいのかなって思ったし……)


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