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「お邪魔しまーす」
「はい。いらっしゃい」
訪れた貴一さんのお部屋は、とある大きなマンションの上の階だった。
「コート預かるよ」
リビングに入るとそう言われ、私は慌てて自分のコートを脱ぐ。貴一さんは手慣れた風に私からコートを預かりそれをポールハンガーにひっ掛ける。
その仕草があまりにも自然すぎるので、なんだか変にドキドキした。
(大人の人ってこういうの普通なのかな……)
いつだって貴一さんはこういうことしてくれる。
ドアを開ける時は最初に私を通してくれるし、道を歩けば自分はいつも道路側。さっきも車の助手席開けてくれたし……。
(レディファーストて言うやつ?ただ単に私の方が気が利かないだけ?)
どちらにしても、同級生でこういう所作が自然と出来る男子ってまず居ないからついつい気になってしまう。
(あれかな、貴一さんの経験の差とか……なのかな……)
過去にどれだけの女の人と貴一さんが付き合っていたのかはわからない。
このたらしのおじさんのことだからきっととても多いはず。そんなことを勝手に想像してつきんと胸の奥が痛くなった。
「遠慮しないで適当に座ってね。今コーヒー入れるから」
ぽんと私の頭を撫でて、貴一さんはカウンターキッチンへ。
適当にと言われて改めてリビングを見渡すしてみる。お部屋にあるのは革張りの大っきな黒いソファとソファの高さに合わせたテーブル、それから大っきなテレビくらい。あとはへんてこな観葉植物が部屋の隅の方にぽつんとあるだけ。
物があんまりない。
なんだか「寂しい部屋」と、そんな感想を心の中でぼんやり浮かべた。
これがクールで渋いおじさまの部屋だったなら「シンプルな部屋」くらいの感想だけど、住んでいるのがいつもニコニコへらへらの貴一さんだから少しだけ違和感。
「どーしたの?座らないの?」
「へぁっ!?」
不意に後ろから声をかけられ飛び上がる。びっくりして変な声を上げてしまうと、貴一さんが肩を震わせた。
「へぁって……、へぁって……、ななちゃん……ウルトラマン……くくっ、」
「わ、笑わないでくださたい!!」
ウルトラマンはよく知らないけど。
ただでさえ変な声出して恥ずかしいのに、必死に笑を堪えようとしている貴一さんのその様子に、こちらも更に恥ずかしくなる。