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お雛様

■ □ ■ □


ママが私のお雛飾りを出したのは、
3月の桃の節句よりうんと早い2月18日のことだった。


休日の朝っぱらからなにかバタバタしているなと思ったら、ママはリビングで10段もある雛飾りを一人で用意して全部飾り付けしていたわけで。


「言ってくれたら手伝ったのに」

「ダメよ〜、ママの年に一度の楽しみなんだから♪」


ウキウキした笑顔でママが言う。
そんなママの様子に、呆れつつも微笑ましく思えてしまうわけで……。


うちのお雛飾りはとても大きい。
私とママの住むこの小さな家に少し不釣り合いなほどに。

この大きなお雛飾りは、私がまだママのお腹の中にいた頃……私が女の子だって判った時にお父さんが喜び勇んで買ってきたそうな……。


お父さんが買ってきたものだからか、ママはこのお雛飾りをとてもとても大切にしているわけで。

そして、毎年おひな祭りのシーズンが近づくと異様にテンションが上がるのだ。




(お雛さまのプレゼントってとこがいかにも年寄りらしいけど……)

年頃の娘としてはちょっぴり複雑ではあるものの。ママがこんなにも幸せそうにしてるから、私はお父さんのこともこのお雛様のことも大好きだ。




「甘酒とあられはまだ早いけど、桃の花は飾っておきたいわね」

「じゃ、あたし買ってくるよ」

「あら?いいの?」

「うん。暇だし」

「ならお願いね」

「うん」



そうしてお昼ご飯を食べた後。
私はお花屋さんまで桃の花を買いに出掛けることになった。



(あ〜っ、めっちゃ寒いっ!!)


外を歩きながら、私はマフラーに顔をうずめながら外に出たことに後悔した。

まだ昼間で日差しがあったかそうだったから、薄めのコートにマフラーのみという軽装備で外に出てしまったわけで。
しかも下はショートパンツにタイツ、短かいブーツというロイヤルストレート寒い組み合わせだ。



(あたし馬鹿だ、ほんの数日前まで雪がめっちゃ降ってたし積もってたのに……)


そう後悔するものの。
かといって引き返して着替えたりするのも面倒で。私は寒さに耐えながらお花屋さんまでの道をとぼとぼ歩いた。


町はバレンタインの赤から一転して、もうホワイトデーのムード。白と青の色の組み合わせが多く思える。

その合間に、ひな祭りっぽい色もちらほら。



(あたしはおひな祭りの方が好きだなぁ)


なんて僻んだことを思ってしまうのは、私にホワイトデーの予定がないせいか……。

貴一さんにチョコを贈ったけれど、貴一さんからも金平糖を貰ったから私のホワイトデーはもう終わったようなものだから。

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