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『恋愛は先に惚れた方が負け』と、どこかの何かで聞いたことがある。
ほんまそれ。禿同。
貴一さんに翻弄される度、そんなことを考える。
私と貴一さんはチューはするし手も繋ぐし、ついでに現在進行形で抱きしめられたりしてるわけだけど、これでも付き合っているわけじゃない。
私が貴一さんのことが好きだから、なにもかも拒めないだけ。特に甘えられたりするとこっちが折れる形になってしまう。
私の気持ちを貴一さんは知ってるけれど、貴一さんの気持ちを私は知らない。
好きかどうか。
女として見てくれてるかどうか。
実は遊ばれてる?
触れてくるのは単なる気まぐれ。
貴一さんはそんな人じゃない……なんて信じれるほど私はこのおじさんのことをよく知らないから。尚更、不安になる。
「ね、イチャイチャするの飽きた。ゲームしたい!陸とやってるってやつ」
「飽きたって酷いなー。おじさん傷つきますよ」
今は貴一さんの太腿の上に乗せられて、後ろから抱き締められるような体制。
なんとかこの状況から抜け出したくてゲームをしたいと言い出してみる。貴一さんは傷つくと言いながらも肩で笑っていて、その振動がこちらにも伝わってくる。
その振動すらこちらの心臓に悪い。
腕の力が弱まったのでチャンスと思い貴一さんの上から降りると、貴一さんも立ち上がってどこか別の部屋へ。
すぐに戻ってくると、貴一さんはゲーム機を抱えていた。どうやら本当にゲームやらせてくれるらしい。
そうしてそれをテレビに繋ぐと映画みたいなCGの映像がテレビの画面いっぱいに映し出される。大きいテレビのせいかなんだか迫力がすごい。
「ゲームとか久しぶりー」
「そうなの?」
「うん。やってもスマホのアプリとかだけだし。テレビゲームって小学生頃以来かも」
「ふーん。じゃあ、はい。飽きるまで遊んでていーよ」
言いながらコントローラを渡される。
それを受け取りながら貴一さんの顔を見ると、なんだかとっても怪しい笑顔。
「で。奈々ちゃんがゲームに飽きたら、今度はおじさんが飽きるまで奈々ちゃんとイチャイチャさせてもらうからね?」
「へっ!?」
「言ったよね?男はオオカミって」
「〜〜っ!?」
にこりとキレイに微笑まれ、私はびくりと体が固まった。
(もしかして、さっきの怒ってる!?
あたし食べられちゃう!?乙女のピンチってやつ!?)
心の中でSOS。
結局、怖い笑顔の貴一さんが気になって気になってゲームは全然集中できなかった。