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そうして本当にあっさりとお墓参りは終わった。
名残惜しむ様子も無くすたすた歩く那由多さん。その後ろを私はまた付いて歩いた……。
霊園から出る時、向かい側から歩いて来る人がいた。その人が歩く度、じゃりっと、砂利石を踏む音が静かに響く。
その音に私はびくびくと無意識に体を強張らせた。
「どうしたの?幽霊じゃないよ」
「わかってますよっ!!」
那由多さんがからかう様に私を見る。
おかげで、向かい側から歩いて来た知らない人には変な顔をされた。
すれ違い際に小さく会釈をして、少し離れた所で那由多さんに文句を言った。
「もう!変なこと言わないで下さいよ、恥ずかしい」
「そんなビクビクしてるからだよ。もしかして墓場とか幽霊怖い系?」
「怖くないですよっ!!」
子ども扱いが悔しくてそう言い返す。
言い返してから、この反応がもう子どもっぽいかもと少し後悔。
「……お墓ってなんか苦手なんです」
「ふーん、なんで?」
「なんでって……それは、えっと、嫌な思い出があって……」
「嫌な思い出?」
……そうだ。
お墓には嫌な思い出があったんだ。
あれは私が5歳位の頃。
ママに連れられてお父さんのお墓参りをしたことがあった。
その時に……
「その時にお父さんのお姉さんと鉢合わせしたんです。それで、その人がママのこと叩いたんです」
「叩いた?」
「……はい、頬を思いっきり」
今思い出しても怖くて身体が強張ってしまう。
砂利石を踏む音。
お線香の匂い。
踏み潰された菊の花。
ママを叩いて怒鳴りつけたあの人の顔。
幼かった私はママにすがりついて泣く事しか出来なかった……。
それ以来、お墓はなんだか怖くて。
私はお父さんのお墓参りに行ったことはなかった。
「君のお父さんのお姉さんってことは、随分なババァなんじゃないの?」
「ババァって……」
「もうとっくに亡くなってるんじゃない?墓参りくらい行けばいいのに」
那由多さんは遠慮なくズケズケとそう言った。
相変わらずマイペースな態度のこの人に、私はさっきまでの恐怖心も忘れて思わず笑ってしまった。