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スクラップノートには、色々な記事や写真の切り抜き貼ってあった。風景の写真や野良猫の写真なんかがあって、そのなかで多かったのは貴一さんと、古川紋次郎さんの写真だった。
それから、お腹の大きい妊婦さんの写真……
(この人が那由多さんのお母さんか……)
とっても綺麗な人だった。
綺麗で優しそうで、明るい雰囲気の女の人。
「那由多さんのお母さんって、貴一さんの初恋の人なのかな」
「はぁ?」
思わず呟いた言葉に、那由多さんは思いっきり顔をしかめた。
「ジジィの愛人だよ?」
「えー……でも、綺麗なお姉さんだし」
16歳の年頃の男の子なら憧れちゃうんじゃないかな。そう思って写真を見直す。
あまりお腹が目立たない頃の写真もある。すらっとしたモデル体系、歳はよくわからないけど、とっても綺麗なお姉さんだ。
「絶対ない。貴一君、母さんのこと苦手だったって言ってたし」
「そうなの?」
「魔女みたいでおっかなかったってさ」
「魔女って」
なにそれ。
思わず吹き出してしまった。
そうしてスクラップノートを捲りながら、色々な思い出話を聞かせてもらった。
「これは?なにしてる写真ですか?」
「ガラス細工をつくってるところだよ、母さん職人だったし。ジジィもたまに作ってた」
「このお家で?」
「そう。裏にね、工房があるんだ。もう使われてないけど……」
「へぇー、那由多さんのお母さんって凄いんだ」
「……たしか、貴一君も作ってたよ」
「え、貴一さんも?」
言われてなんだか意外だった。
貴一さんって、不器用そうなイメージだから。
(あ、でもラテアートは上手だったよね。お料理出来ないから勝手にそんなイメージ抱いてたけど……)
そんなことを考えて一人納得する。
意外に思ったのが伝わったのか、那由多さんが「貴一君は器用だよ」と教えてくれた。
「ジジィに似て陶芸の才能もあるし……本人はやる気ないみたいだけど」
「そうなんだ……」
また知らなかった貴一さんの一面を知ってしまった。
貴一さんはあの大きな手でどんな作品を生み出すんだろう……。