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「……元気ないな」
「……へ?」
こっそり話しかけられて、はっと我に返る。顔を上げれば隣に座ってるクラスメイトの雨宮さんが私を見ていた。
そうだ。貴一さんのこと考え込んでいたけど、今は3年生の卒業式の真っ最中だった。
講堂で隣の席の雨宮さんは、ぼーっとする私に心配して声をかけてくれたみたい。
「風邪か?先生を呼ぼうか?」
「ありがとう。へーきへーき」
小声でそう言ってへらっと笑ってみる。
そんな私の反応に、雨宮さんは少し困った様な顔をしながらもうんと頷いてくれた 。
「具合が悪くなったらすぐ言うんだぞ」
「うん、ありがとう」
雨宮さんは正真正銘の女の子だけど、話し方や仕草が男の子っぽい。
しかも、そこら辺の男子よりずっとイケメンだから優しくされると不覚にもときめいてしまうわけで。
(貴一さんに相手にされないからって同性はマズイでしょ、あたしっ!!)
なんて頭のなかで叫ぶ。
貴一さんと会って以来、どうにも私の心は不安定だ。
そうこうしているうちに、卒業式は滞りなく進行している。私は卒業式の間中、終始他人事の様に思いながら式が終わるのを待った。
だって、部活にも入ってないし、特別仲が良い先輩もいなかったから。
(そもそも3年の先輩方も、あたしのことなんて知ってる人もいないだろうしね……)
そう思っていたのに……
■ □ ■ □
「俺、相沢さんのことが好きなんだ」
卒業式の後。
3年生の先輩に呼び出されて告白された。
名前も知らない人だった。
背の高い、眼鏡を掛けたかっこいい人だった。
(あ、"なんとか先輩"……)
私は直感的にそう思った。
バレンタインの時に日向ちゃんから聞かされた先輩は、きっとこの人だ。
「……ごめんなさい」
私は大きく息を吸って、頭を下げた。
心がすごく痛かった。
告白を断わった経験はこれまでだってあったのに、今回は特別痛かった。
たぶん、貴一さんに振られてその辛さを知ってしまったからだと思う。
「やっぱ、駄目か……。うん、わかってたけどね。どうしても、気持伝えたかっただけだから……」
そう言って先輩は笑った。
「あの、ごめんなさいっ、あたし……っ」
なにか言おうと思ったけど、上手い言葉が出てこなかった。口ごもる私に先輩は、「無理しないで。困らせてごめんな」と優しく言った。