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先輩と別れて、教室に戻った。
手には桜の花束。
「奈々子、それっ!!」
私の持ってた花束を見て、日向ちゃんが目を輝かせて駆け寄ってきた。
「告られたのっ!?」
「うーん、まぁ……」
「えっ、その反応……もしかして、断ったの?」
楽しそうな表情から一転して、日向ちゃんは寂しそうな顔をしてそう尋ねる。
私はうんと頷くだけだった。
「もったいなーい」
「そんなこと言われても……、あ!ねぇ、あの先輩の名前教えてよ」
「振ったのに?」
「そうだけど、"なんとか先輩"のままじゃ、ねぇ……」
最後まで名前聞けなかったから。
先輩のこと、ちゃんと覚えていたいから。
そんな私に日向ちゃんは「しかたないなぁ」と嬉しそうに笑った。
■ □ ■ □
卒業式の今日は、式の後片付けが終わるとそのままお昼前に帰れた。
久しぶりに澪とふたりっきりで帰ることになった。「陸は?」と私が尋ねると、澪は少し困ったように笑った。
「陸君は卒業生の先輩たちに連れかれちゃったの。これから焼肉なんだって」
「相変わらず人気者だねーあんたの彼氏」
澪の言葉に私はそう茶化して返す。
澪の彼氏の陸は年齢性別問わず友達を作れる天才だ。
「そうだ。奈々子ちゃん、お昼から暇?」
「え?うん、暇だけど」
なにか用事かなと尋ねると、澪が一枚のハガキを見せてくれた。それはなにかの展示会の案内が描かれているDMだった。
その内容は……
「えっ!?フルカワの陶芸展!?」
「うん。奈々子ちゃんも興味あったら一緒にどうかなって思って……」
そう言って澪が控えめに微笑む。
私はその言葉に元気良く頷いた。
「行く!!」