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「そう言えば、今日はフルカワの新しい社長も此処に来てるんだ」
一通り見終わったタイミングで、仁さんがそんなことを言い出した。
仁さんの言葉に、私も澪もビクッとなった。だって、フルカワの新社長って言ったらそんなの貴一さんしかいなくて……
「あ。いた!古川社長!」
固まる私たちを余所に、仁さんが声を上げた。
人混みのなか、仁さんの声に振り向いた人と目が合った。貴一さんだった。
目と目が合ってしまい、私は一瞬息が止まった。
(なんでこうなるのよ〜っ!?)
「どうも、如月さん。……奈々、子ちゃんに……澪ちゃんも……?」
「おや?彼女たちとお知り合いでしたか?」
仁さんと貴一さんが言葉を交わす。
私たちを知っていたことに仁さんは不思議そうな顔をして貴一さんに尋ねた。
貴一さんは尋ねられて、一瞬バツの悪そうな顔をした。たぶんそれは私のせいだ。
「あー……、澪ちゃんは陸の恋人ですから」
そう言って貴一さんがへらっと笑う。
仁さんはその言葉に目をまん丸くさせて、澪を見た。
「陸君の!?それは、知らなかった!! 澪ちゃん、陸君にはいつもお世話になってます」
仁さんが恭しく澪に頭を下げた。
そんな様子に慌てる澪。
どうやら、仁さんも陸の友達だったらしい。
(あいつ、ほんと何者なのよ……)
友好関係の広い奴だと思ってたけど、まさか仁さんとまで……。
「奈々子ちゃんは僕の親戚のお嬢さんでして、今日はたまたま観に来てくれたようで」
「そうですか……」
仁さんと貴一さんが和かにそんな会話をしている。その間、私も澪も気まずくてなにも言葉を発せられなかった。
「この度は、とても貴重な品をお貸し頂けまして感謝しています」
「こちこそ、祖父の作品をここまで良い状態で保存して頂けて感謝していますよ」
なんて大人な会話。
仕事モードの貴一さんてこんな感じなんだと、内心でドキドキ。
「そう言えば、ひとつ聞きたいことが」
「なんです?」
「古川紋次郎氏はハンバーガー好きだったという逸話がありますが、あれは本当だったのでしょうか?」
(またハンバーガーっ!?真面目な顔してなんてこと聞くのよ仁さんっ!!!!)
仕事モードだったのに、仁さんが急に可笑しな話題を持ち出した。私は思わず心のなかでツッコミ。
すると、
「あ!私も!!知りたいです!」
隣の澪が元気良くそう声を上げた。
(ええええっ!!澪もっ!?)
なんで皆してこのハンバーガーネタ好きなのよ……。
「あぁ、ハンバーガーの話ね……」
貴一さんが可笑しそうに小さく笑った。
仁さんも澪は真剣な顔してる。
そんな二人に、貴一さんはへらっと笑ったままこう言った。
「あれ、ガセですよ」