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私も一応は着物だけど、子供っぽい私が着ているせいか七五三みたいに思えてしょうがない。
それなのに、貴一さんは私の格好を見て「着物、可愛いね」といつものように本気かどうかもわからない言葉を掛けてくるわけで。
もう会わないって約束したはずなのに、貴一さんはなんでこんなに普通にしていられるんだろう……。
(貴一さんのなかで、あたしのポジションは「遊び相手」から「知り合いの女の子」に切り替わったのかな……)
なんて頭の隅で考える。
やっぱり貴一さんは狡い大人だ。
「あの……っ」
「ん?」
「今日は、お一人なんですか?」
思わず訊いてしまった。
お嫁さんと一緒じゃないのかって。
だって、パーティって言ったら大概パートナーを連れてくるものだ。私の勝手なイメージだけど。
会いたいわけじゃないのに、どうしても気になってしまう。
「……あぁ、うん。今日は一人だよ」
貴一さんは私の言葉の意図を感じ取ったように、へらっと笑って頷いた。
そして視線を少しだけ落として薬指の指輪に目を向けた。その視線がなんだか優しげて、私は胸の奥がぐっと苦しくなった。
「……そういえば。僕、挨拶まだなんだけど」
「挨拶?」
「今日の主役の……ええっと、如月シキお婆さまの」
「あぁ……!」
貴一さんの言葉にやっと意味がわかって頷いた。
私まで忘れるところだった。
このパーティのメインは如月の家のお婆さん……如月シキさんの誕生日のお祝いだった。
(お誕生日なんだもん、ちゃんとお祝いしないとだよね……)
けど、実のところ私はそのお婆さんのことをよく知らない。そもそも如月家とはこれまで全く関わったことがないのだから。
(あたし、如月家の厄介者だし……)
きちんと顔を知ってる人と言えば、本家の仁さんと、仁さんのご両親と……あとはお父さんのお姉さんくらいだ……。
このお父さんのお姉さんと言えば、昔のお墓参りの一件で恐いという印象しかない。
(その如月シキお婆さまって、あの時の恐いお婆さんじゃないよね……。どうか違いますように……)
なんて心の中で唱えてみる。
もしうっかり顔を合わせでもしたら、ママの時みたいにぶん殴られて屋敷から追い出されると思う。きっと塩なんかも撒かれるに違いない。
「……ねぇ、奈々ちゃん、訊いてる?」
「……へ?」
貴一さんの声にはっと我に返る。
ついつい考え込んでしまってて、貴一さんの言葉は上の空で聞いてしまっていた。
「……えーっと、なんだっけ?」
「だからね、案内して欲しいんだけど」
「えっ?」
「如月シキさんのところへ。挨拶したいからさ」
貴一さんがそう言い出す。
そのお願いに、私は内心で、
(ぜったい無理だしっ!!)
と、そう叫んだ。