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それからはテレビの音をBGMにして、ソファでぐだぐだ。おしゃべりしたり、互いにそれぞれスマホを弄ったり。
あのビンタが効いたのか、貴一さんからのセクハラはなし。
それはそれで寂しい気が……、なんて思ってしまう私は相当な馬鹿。
スマホを弄るのに飽きたのか貴一さんはソファから腰を上げてキッチンへ。
すると、
ブブブと途端に震え出す貴一さんのスマホ。画面が光ってて、そこに表示されてるのは明らかに女の名前で……。
「貴一さん電話。鳴ってる」
「んー?ありがと」
キッチンでコーヒーを煎れていたらしい貴一さんに教える。戻ってきた彼はなんてことはない風に返事をして電話を取る。
「もしもーし」
なんて間抜け声。
そして、電話の向こうから零れて聞こえてくるのは、女の人の高い声だった。
「なに?え?今夜?また急だねー。んー、どうしよっかなぁ……」
私は慌ててスマホを触って意識をそっちに向ける。でも、聞いちゃいけないと思いつつも、なんだか電話の内容が気になってしまう。
だって、相手女の人だし。
今夜がどうとかって……。
(これ、もしかしなくても夜のお誘いってやつ?あたし邪魔?貴一さんそっち行っちゃうの?)
一気にそんなことを考えてしまい、なんだか泣きそうになる。
泣かないようにスマホをぎゅっと握る。画面をあっちこっちスクロールしてみたり、アプリを立ち上げては画面を閉じてみたりして気を紛らわせようとしてみる。
「んー、いいよ今夜で。ああ、何時もの場所だよね。
あ。ていうか、また後で連絡してくれる?今デート中だから」
そう言って貴一さんがスマホから顔を話して通話を切った。その切り際、女の人の怒ったような甲高い声が聞こえた。
そりゃ、怒るよね。誘ってる男が自分じゃない別の女と一緒って。しかも夜の方の誘いは了解しといてだ。
『松嶋やよい』
さっき見てしまった電話相手の名前だ。
その人は彼女?セフレ?
私は?私の立ち位置はどこ?
そう思ってても、聞けなかった。
「どうしたの?奈々ちゃん。泣きそうな顔して」
通話を終えてこちらに向き直す貴一さんがそう聞いてくるから。
私の気持ちなんて知ってるくせに、わざとそんなこと言うんだ。
「なんでもない」
「そう?」
貴一さんは、
とても、狡い大人だ。
-November-