1641
……そのあと、シキお婆ちゃんは泣き疲れたのかすぐに眠ってしまった。
ちょうど様子を見に来た仁さんにあとを任せて、私と貴一さんはお部屋をあとにした。
「……きーちさん、ほっぺ大丈夫?」
「平気だよ」
お婆ちゃんに叩かれた貴一さんの頬はほんのり赤くなっていた。
心配になって声を掛けると、貴一さんはいつものへらっとした笑みを浮かべながら、平気と答えた。
「あの……」
「ん?」
「……今日は、巻き込んでごめんなさい」
「奈々ちゃんが謝ることじゃないよ、僕が最初にやるって言いだしたことだし……それに、祖父さんと祖母さんの話も聞けて楽しかったよ……」
「そっか……」
(よかった……)
貴一さんの言葉に、ほっと安心して笑みが零れた。
すると、貴一さんは私の顔をまじまじと見たあと「しまった……」と口元を手で覆いながら声を零した。
「どうしたの……?」
「……せっかく夫婦のふりしてたんだか、やっぱりキスの一つでもしとけば良かったよね。もったいない……」
なんて、いつものエロおやじ発言。
なんでこの流れでそんな発想が出来るんだろう。
呆れつつも、私は可笑しくてついつい笑ってしまった。
「きーちさんの、エロおやじ」
「奈々ちゃんが可愛いからだよ」
なんていつものやりとり。
ほんの少しだけ、昔に戻ったみたい。
貴一さんが私を見て、また微笑んでくれている。
それだけで、今はただ幸せだった。