1641


そうして、お昼休みも澪と陸の邪魔しないように今日は二人っきりにしてあげた。


他のグループに混ざってご飯食べようかなとも思ったけど、今日はなんとなくそんな気になれなくて、保健室へ向かった。
3年生が卒業して居なくなってしまったからか、廊下はやけに静かだった。



「せーんせ!遊びにきたよー」

「ドアは静かに開けろ!保健室は遊び場じゃない!」


いつもの様に元気良く保健室のドアを開けると、いつもの様に森川先生からの小言が返ってきた。

それがなんだ可笑しくて私はクスクス笑う。先生も慣れた様子で私用に新しいカップを取り出してコーヒーを煎れてくれた。

オレンジ色の、底の深いマグカップ。
以前私が割ってしまったカップの代わりに持ってきたもので、それ以来すっかり私用として定着してしまった。



「せんせー!今日はあたし、カフェオレの気分」

「はいはい」


面倒くさそうに返事しながらも、先生はちゃんとカフェオレにしてくれた。


「ねぇ先生、ホワイトデーは歩美さんとイチャイチャできそう?」

カフェオレ飲みつつお昼ごはんのパンをかじって、そんなことを訊いてみた。
すると先生は、げほっと大きくむせた。



「お前なぁ……」

「だって、最近なんの進展もないみたいだしつまんないんだもん」


クリスマスにプロポーズして。お正月には歩美さんの実家へ挨拶に行って。

……順調かなと思ったらバレンタインはバタバタしててそれどころじゃなかったって言うし、それから浮いた話題のひとつもない。

でも今日はなんと言ってもホワイトデー。デートくらいするんじゃないのかな……。



「言っただろ、仕事の方で忙しくて歩美はそれどころじゃないんだよ」

「えー?じゃあデートもなし?」


なんだかそれも寂しい話。
人のこととやかく言える立場でもないけど。


「仕事の環境が変わったせいか、以前にも増して忙しそうにしてるよ。今はなるべく負担になるようなことは減らしてやりたいからな」

そう話す先生は、なんだかとっても大人に見えた。大人同士のお付き合いって、なんだか凄い。相手のこと、ちゃんと想ってサポート出来て。


……それに比べて私ときたら、

(貴一さんの仕事モードの時もプライベートな時も、自分の気持ちばっかりだったよなぁ)


自分の子ども加減を自覚して情けなくなる。
< 206 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop