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「そうだ、これ」

「……ふぇっ?」


パンをかじる私に、先生が急になにかを差し出した。パンを咥えたまま返事したから間抜けな声が出た。

ごっくんと飲み込んでから受け取ったそれは、白い木箱だった。


「なに?」

「お前にって。古川の当主から」

「……とうしゅって、えぇっ!?」



古川の当主からなんて聞いて、びっくりして木箱を落としそうなった。
慌てて抱き込むと、箱のなかでカチャカチャと陶器が擦れるような音が小さく聞こえた。


(なんか……中身が想像出来てしまったような……)



「気をつけろよ、結構高い物らしいから」

追い打ちを掛けるように先生がわざとらしくそう言った。その言葉で、想像が確信に変わった。


「……中身、フルカワの?」

「そうそう。新作の……シュガーポットだっけ?そんなやつ」

「金平糖のポットだよ」


思わず言い返してしまう。
これだけは絶対譲れないから。



「でも、なんで……」


(隆雅さんからあたしに……?そしてなぜに先生が……?)


そう疑問に思っていると、


「歩美経由で俺が預かったんだよ、バレンタインのお返しだってさ」

と、先生はそう説明してくれた。


そうだ、そうだ、そうだった。
バレンタインの時、実は貴一さんの実家にもお菓子送ったんだっけ。貰ったお茶碗のお礼も兼ねて。


(あの時はまさかバレンタインに振られるなんて思ってもみなかったし……)

だから、送ったことは後になってからすごく後悔したし、思い出さないようにしてて。その存在のことは今の今まですっかり忘れていたわけで……。



「なんで歩美から渡ってきたかわかる?」

「あたしが……もう貴一さんとはなんの関係もなくなったから?」


「というより、貴一さんからだと絶対に相沢の元に届かないって判断されたんだよ」

「……そりゃ、きーちさんはもうあたしとは会ってくれないから」

「んー……、まぁそうだけど、相沢の思ってる意味とは少し違うだろうな」


そう言って先生が優しく笑う。
先生がなにを言おうとしてるのか、私はよくわからなかった。


「手紙も預かってるから読め。それで、手紙読んでから考えろ。自分のしたいこと」

「あたしの、したいこと……?」


ますます意味がわからない。


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