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保健医の森川先生と私は「先生と学生」という間柄ではあるものの、それ以上に仲が良い。私が一方的に懐いてるだけかもしれないけど。


仮病を使って授業をサボる時はもちろん、放課後とか、空き時間とか、森川先生が淹れてくれる紅茶を目当てに私はよく保健室に訪れている。

そうすると、私と先生はいつの間にか自然とお互いの事についてよく話すようになっていた。


そんなわけで、

先生の恋愛事情はばっちり把握済み。



「先生ならきっと大丈夫だよ。5年も続いてるんだし、歩美の年齢的にも結婚適齢期じゃないの?」

「おい、人の彼女呼び捨てにするな」

「ごめんなさーい」


くすくす笑いながら返すと、先生はむすっと不機嫌顔。


「そういう相沢は?」

「へ?」

「例の片思いしてるおっさんとはどうなったんだ?」

「ちょっ、今それ聞いちゃいますか!?」


思わぬ反撃に今度は私の方がしどろもどろになる。けど、先生の表情はからかいとかを含んでいるわけでもなく真剣だった。


「相手、俺より歳上なんだろ?本当に大丈夫なのか?」


「やぁ〜、どうでしょうね〜」


心配してもらえるのは有難いけれど、今はへらっと笑って答える事しかできなかった。この笑い方がなんとなく貴一さんの真似みたいで恥ずかしい。



正直、先日のあの一件で、貴一さんに遊ばれてるっていうのを自覚してしまったわけで……。

実際、心中は穏やかじゃない。


けど、それを私が先生に訴えて、もし話が広がりでもしたら、貴一さんに迷惑掛けちゃうから何も言えない。

私が一方的に好きなだけだから。




「危ない事になったら、すぐ相談しろよ」

「うん、先生ありがとう」




(危ない事なんてなかったよ……)


心の中でそうぽつりと呟く。

あの日、貴一さんの部屋に行ったことを思い返してみる。


なにもなかった。

いつものセクハラ以上の、エッチなこととか全くなかった。それに私がビンタしてからはそのセクハラすらしてこなかったし。



……むしろ、触れたのは私の方だ。

あの日、私は貴一さんにキスをした。

ほっぺとかデコとかへのチューじゃない。貴一さんの口に。自分から。



(うー、今思い出しても恥ずかしい……)

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