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「僕は奈々ちゃんより先に死ぬよ」
貴一さんがぽつりとそう呟いた。
その言葉に、私は思わず息を飲んだ。
「歳をとるってそういうことだ。
そのうち……ある日突然、元気でいれなくなってしまうことだってある。
うちの親父のように急に倒れることも、シキさんのようにものを忘れてしまうこともある……。僕は奈々ちゃんより先に死ぬし、そのうち奈々ちゃんのことを忘れてしまうかもしれないよ」
そう言って貴一さんは私に現実を突きつけた。
それは、16歳の私と41歳の貴一さんの間にあるどうしたって変えようがない現実で、いつかくる未来。
「それでも、あたしは……っ」
「違う……奈々ちゃんが信用できないんじゃないっ……僕は、僕が自信がないんだ。
僕は、君にずっと好きでいてもらえるだけの人間じゃない……」
貴一さんが自嘲気味に笑ってそう吐き捨てた。その言葉に私は、いっぱい首を横に振った。そんなことない!って。
「……あたし、貴一さんのこと好きなの」
かっこいいところも。
ダメなところも。
時々おじさんくさくなるところも。
狡いところも。
そして、とても優しいところも。
全部、全部大好き。
「だからね……、自信がないって言うなら……あたし笑うから。やっぱり間違いだったなんて貴一さんが後悔しないように……。
貴一さんが亡くなるその時まで、ずっとずっと笑ってるから……」
だから、
貴一さんの側にずっと居させてください。