1641
「やっぱり……」
私の言葉の後、貴一さんがぽつりとそう呟いた。顔を見ればとても優しく笑っていて……。
「……やっぱり、奈々ちゃんには敵わないね……16歳の女の子に、こんなに熱烈に口説かれるなんて……」
嬉しそうに楽しそうに呟いて、貴一さんは笑った。子どもみたいに。
「ねぇ、奈々ちゃん」
「はい」
「好きだよ」
「……っ、はい」
「ずっと、好きだったよ」
「……んっ」
「……なんだか照れるねぇ。こんな風に気持ちを伝えたの、おじさん生まれて初めてだよ」
そう言って貴一さんは照れくさそうに、そして少しだけ泣きそうな顔をして笑った。
「……あれ?ずっと笑っててくれるんじゃなかったっけ?」
「……っう、これはっ……これは嬉し泣きだから、いいんですっ!」
わざとなのか素なのか。
泣いてることを指摘してくる貴一さんは、本当に乙女心のわからないおじさんだ。
「……あぁ、しまったなぁ。お店、入っちゃったの間違いだったね」
「……へっ?」
「だって、奈々ちゃんのこと抱き締められないし」
なんて。
エロおやじは相変わらずだし。
「きーちさんの、えろおやじ……」
「あはは、奈々ちゃんが可愛いからだよ。
……でも、本当にタチの悪いおじさんに引っかかっちゃったねぇ……」
なんて言いつつ、
「もう逃がしてあげられないけど。ごめんね」
と、貴一さんが悪びれる様子もなく笑う。
そんな笑顔にきゅんとなってしまう私も、もうきっと手遅れなんのだろう。
(けど確かに……あぁ、本当にタチが悪いかも……)
貴一さんは、狡い大人だ。
-0314 White day-