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「でも、スマホを捨てたのは自分の為だったよ」
「……え?」
「僕ね、本当言うと、奈々ちゃんと出来ることなら一緒なりたかったよ」
そう言って貴一さんが情けない顔で小さく笑う。私は突然の言葉にドキドキしてなにも言い返せなかった。
「身を固めろって言われた時、真っ先に奈々ちゃんが思い浮かんだ。
それで、駄目だってわかっていながら色々考えてしまったんだ。奈々ちゃんが僕のこと好きなの知ってたから……。
上手いこと言いくるめて強引に押し切って、それで全部奪って手篭めにしちゃえば僕のものになるなって……たぶん奈々ちゃんは拒まないだろうなって……」
貴一さんの話に私は体中がかぁっと熱くなった。だってまさかそこまで貴一さんが私のこと考えてたなんて……。
「それで、ますます自分が情けなくなった。ずっと大人ぶって奈々ちゃんの幸せを考えてたくせに、そんなことを考えてしまった自分が恥ずかしくて心底情けなくて……。
正直、奈々ちゃんに会わせる顔がなくて。このまま会っても、きっと変な事しでかしそうで……」
だからね、捨てたんだ。
そう言って貴一さんはまた笑う。
私はなんだかなにも言えなくて、ただただ貴一さんの手を握ることしか出来なかった。貴一さんは私が握った手をぎゅっと握り返した。
「けど、池に捨てた後に八太郎が咥えてもって来たけどね。しっぽ振って、どや顔で」
付け足すように貴一さんがそんな話してくれた。その話に思わず私は笑ってしまった。
可愛いしっぽをいっぱいに振って、拾ってきたスマホを見せつける八太郎の姿が目に浮かんで。
きっとすごく可愛かっただろうな。
「……という訳で、スマホを水没させた経緯は以上です」
貴一さんが話を切り上げるようにわざとらしくそう声をあげた。そんな様子もまた可笑しかった。
「きーちさんて、結構あたしのこと好きだったんだね」
私は思わずそう呟いた。
茶化すように。冗談交じりに。
「……そうだよ、奈々ちゃんが思ってる以上にね」
返ってきたのは、
いつかと同じ言葉だった。