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■ □ ■ □


ことの発端はあのバレンタインの夜……。


「あたしを拾って下さいっ!!」

那由多さんにそんなお願いをした。
そして私のその言葉に、那由多さんは端末を床に落とすほどに動揺した。




『……どういうつもり?』

しばらくして端末を拾い上げた那由多さんが、そう言葉を返した。よかった、どうやら端末無事みたい。



「だって、お正月の時約束したじゃないですか……、捨てられたら拾ってあげるって」


『…………』


私の言葉に那由多さんはむすっと黙った。そして少しの沈黙の後、那由多さんがこう尋ねた。


『貴一君が、本当に君を捨てたわけ?』


まるで信用出来ないという様な言い方。
その言葉に私は頷いて返した。


「……はい、結婚するって言って……もしかしてご存知有りませんか?」


『……さぁてねぇ。

……けどその話が本当だとしても、僕に声掛けられても困るんだけど……ほら、貴一君と穴兄弟とか笑えないし』

「なっ!?下品なこと言わないで下さいっ!!サイッテー!!」



那由多さんの発言に私は顔を真っ赤にして画面に向かって大声を上げる。


(ていうか貴一さんとエッチもしてないしっ!!)




「あたしだって別に那由多さんと付き合いたいわけじゃないですっ!!」

『そうなの?あぁ、良かった……で?それじゃあどういうわけで?』

「……えいご」

『英語?』

「……英語を教えて欲しいんです」



そう言って私は画面の向こうの那由多さんにぺこりと深く頭を下げた。



『なんで?』

「那由多さん現役のニューヨーカーじゃないですか、英語なんてペラペラでしょ?」

『だから、なんで俺が君に英語なんか教えないといけないのかって訊いてんだよ』

「それは……」



画面越しにうんざりした様な視線を向けられながら、私はこれまでの事情を那由多さんに話した。


如月の家のこと。
仁さんに言われた将来のことを……。



『……ふーん、それで君はそのお飾りの社長になりたいの?』


「べつに、なりたくはないですよ。けど……」


『……けど?』


「……貴一さんに釣り合うような人間になりたくて」

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