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狡い大人



……そうこうして。

少しだけ揉めたものの。ステイの話はなんとか貴一さんに伝えられたし、了解も貰うことが出来た。



(揉めたっていうか、揉まれたっていうか…………って、なに考えてるんだあたしはっ!?)


下ネタを心のなかで呟いてしまうのは、きっとエロおやじの貴一さんの影響かもしれない……。


(まったく、きーちさんのえろおやじ……)




それはさておき。

春休みに会えないかわりに、修了式の日はそのまま貴一さんの部屋に泊まることになった。




■ □ ■ □



泊まりの日は、一緒に銭湯へ行くのが習慣になった。主に私のリクエストで。

貴一さんちのお風呂も広くて綺麗で好きだけれど、銭湯の魅力も捨てがたい。
特に、お風呂上がりに待ち合わせして一緒に帰る瞬間がなんだかとても特別な感じがして大好きだ。



「待たせてごめんなさい」

「そんなに待ってないからへーきだよ」


出る時はいつも貴一さんの方が早い。
貴一さんは髪を乾かさないから余計に。


「きーちさん、また髪濡れてる」

「えー?そう?」


短くなった髪を後ろに掻き上げる。
その仕草がやけに色っぽくてなんだかとてもドキドキしてしまう。

髪を切った貴一さんは以前にも増してかっこよくなったというか、色気が増えたと言うか……普通にしててもなんかエロい。




「もー、風邪引くじゃん」


気恥ずかしさを隠しながら貴一さんにタオルを渡した。赤色のドットのお気に入りのやつ。

受け取ったそのタオルでガシガシと乱暴に髪を拭いてから、貴一さんは自分の首にタオルを引っ掛けた。



「なんか、こんな歌あったねぇ」

「……歌?」


ふふっと楽しそうに笑う貴一さんに、私は首を傾げた。



「そう。昔流行ったフォークソングね。たぶん、奈々ちゃんの世代じゃ知らないと思うけど」

「ふーん」


私はよくわからなかったけれど、隣を歩く貴一さんがなんだかやけに楽しそうだった。

へたくそな鼻歌に、私もなんだか楽しくなった。
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