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ガチャリと戸が開く音がした。
「うわっ!?奈々ちゃん!?こんなとこでなにやってんのっ」
顔を上げると、貴一さんがびっくりした顔をして私を見下ろしていた。
ぼーっとしてたからドアを開ける貴一さんの気配にまったく気がつかなかった。
「そんなとこにいたら風邪引くでしょ」
ぽんぽんと頭を撫でられる。
貴一さんの大きな手があったかくて優しくて。
(やだ、なんか泣きそう……)
そう思った時には、私の目からは大量の涙がボロボロと零れ落ちていた。
「えっ、奈々ちゃん!?ど、どうしたのっ」
急に泣き出した私に貴一さんはギョッと目を見開いてオロオロしていた。
「僕なにかしちゃった?それとも、どっか痛いの?やっぱりお家帰りたいとかっ?」
「……っ、ひっく……ちがうけどっ……」
なんでこんなに涙が零れるのか、自分でもわけわかんない。
(ずっと笑ってるって決めたのになぁ……もぅ、さいあく……)
そんなことを思いながら、ごしごしと服の袖で涙を乱暴に拭う。視界が少しはっきりすると、目の前にはあたふたしてる貴一さんの姿が見えた。
「きーちさんが……っ」
「うん?」
「……きーちさんが、他の女の人と仲良く電話してるから……」
だから嫉妬した。
やきもち焼いた。
そう呟く。胸が苦しい。
すると、ふいに目の前に大きな影がかかって、そのまま貴一さんが私をぎゅっと抱きしめた。
「ぎゃっ!?ちょっ、きーちさんっ……」
「可愛いねぇ奈々ちゃんって」
ふふっと、柔らかな笑い声が耳を撫でる。急な事にびっくりして、ドキドキして、さっきまでの涙も思わず引っ込んでしまうくらいだった。
「ちょっ、あたしこれでも本気で怒ってっ……」
「うんうん」
がっちり抱きしめられた状態で、じたばたと暴れる。なんとか顔だけ抜け出して上を向くと、貴一さんはでれっとした間抜けな笑みを浮かべていた。
なんか子ども扱いされてるみたいで、バカにされてるみたいでめちゃくちゃに悔しい……。
「……っ、ちゃんと説明してくんなきゃ、那由多さんと浮気してやるからっ!!」
「なぁっ!?奈々ちゃんそれは駄目だよっ!!」
悔し紛れに脅してみると、間に受けたように貴一さんが慌てた顔をした。
「……たぶん、奈々ちゃんは色々勘違いしてるみたいだけど……電話の、やよいちゃんとはなにもないよ!?」
やましい事は1ミリだって無い!
貴一さんがそう宣言する。
「……でも、夜に会うとか……相性がいいとか……」
貴一さんの言葉が歩に落ちなくて、そうごにょごにょ呟く。するとまた頭をぽんぽんと撫でられた。
「だからそれが誤解だって」
「誤解って……」
「だってリアルの話じゃないから」
リアル?