1641
Epilogue 1641
「忘れ物、無い?」
「ないない!」
「おじさんに、いってきますのチューは?」
「そういうのいいから。ていうか本当にいつか捕まるよ、貴一さん」
出発の日。
貴一さんが空港まで送ってくれた。帰りは仕事でたぶん迎えには来れないだろうからって。
けど、貴一さんはこんな時でもエロおやじ全開で私を困らせる。今だって公衆の面前でチューをねだってきたりするわけで……。
けれど……
「はいこれ」
「なに?」
「餞別」
言いながら、かちゃりと小さく音を鳴らしてあるものを手渡された。
私は手のひらを開いてそれ見る。
渡されたそれは、銀色のピカピカの鍵だった。それも、ガラスと陶器の玉のキーホルダーが括り付けられててとても綺麗だった。
「これって……」
「僕の部屋の鍵」
「……良いの?」
恐る恐る尋ね返すと、ぽんっと頭を撫でられた。気合い入れてセットしてきた髪がくしゃっと揺れる。
「もちろん。迎えは来れないと思うから、代わりにね。僕のとこまでちゃんと帰ってきてね」
「うん。ありがとう……」
貴一さんの言葉が嬉しくて。
私はぎゅっと鍵を締めて胸に抱く。
(また、宝物増えちゃった……)
こんなに嬉しくてどうしよう。
今の私、すっごい幸せだ。
「今度はポストに返却したら駄目だよ」
「それは……うん、ごめん。大切にするから」
いつかのことを言い出されて、ちょっと恥ずかしい。でも貴一さんがあの時のこと覚えててくれて嬉しくもある。
(もしかしたら、あの時ポストに鍵が入ってて貴一さんへこんだのかな……)
そんなこと考える。帰ってきたら聞いてみるのも面白いかもしれない……。
搭乗案内のアナウンスが聞こえてきた。
まだ列に並ぶのは早いかもしれないけれど、これ以上一緒にいるとますます離れ難く感じてしまう。
「じゃあね、いってきます」
だから私はそう言って、自分の荷物をぎゅっと持ち直した。
「いってらっしゃい」
向き直ると、貴一さんが掠めるようなキスをした。