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屋台で焼きそばと焼きとりとたこ焼きを買った。これは一応割り勘。飲み物の缶ジュースは自分で買った。


「貴一さんは飲み物どうします?お酒も売ってるみたいだけど」

「うーん、どうしようかなぁ」

「あたしに遠慮してないで飲んでも良いですよ?飲ませろとか言わないし」


貴一さんが結構な酒豪というのは陸から聞いている。けど、貴一さんは私と一緒の時は飲まないようにしてるみたい。

(あたしへの遠慮とかだったらしなくていいのに……)

そう思って勧めてみると、貴一さんはへらっとちょこっとだらしない笑みを浮かべて頷いた。

「じゃあ一本だけね」


そう言って缶ビールを一本買った。



「けど、一本が400円て高いよね」

「確かに、あたしのジュースも200円したし……ってか、きーちさんは社長さんじゃん。なに貧乏くさいこと言ってんの」

「えー?そうかなぁ」


そんな会話をしながら場所を移動して空いてるベンチに並んで座った。
見上げるとちょうちんに照らされた桜の花。とても綺麗だった。


「綺麗だね」

見上げながら貴一さんが呟く。私もそう思ってたから素直に「うん」と呟く。

すると今度は、

「奈々ちゃんも綺麗だね」

なんて口説くみたいに言ってきた。

びっくりしたのと恥ずかしいのとで、思わず手にしていたジュースの缶を握りしめてしまう。ぺこっと缶がへこんだ。


「せっ、せくはらだし」

「え〜?本当のことなのに。奈々ちゃんつれないねぇ」


貴一さんがクスクス笑う。

また顔がかぁっと熱くなる。せっかくのお花見なのに、顔が上げられなくて地面に落ちて汚れた花びらをじっと睨むように見つめた。そうしてないと顔が変に緩みそうだった。



「ごめんごめん。もうからかわないから」

またぽんっと頭を撫でられる。そうされると余計に顔が上げられないのに。

(わざと?それとも天然たらし?……ってか、なんであたしばっかいつも貴一さんにの言葉に振り回されるのよっ!)

これじゃあ私の方がなんだか片想いみたい。それがちょっと悔しくて私はやけ食いみたいにたこ焼きを頬張った。



「……でも花見なんて何年ぶりかね」

焼きとり片手にそう呟く貴一さんは結構爺くさい。


「会社でとかしないの?」

「うーん、最近は参加してないかなぁ」

「どうして?」


尋ねると貴一さんが少し困った風に笑みを零す。

「これでも一応、社長さんだからね……なんかそういうの僕が参加すると社員の人たちはあんま楽しめないかなぁとか」

へらっと笑いながら貴一さんが答える。
社員の人たちが気を遣うから……だから自分は参加しにくいとか、貴一さんはなんだか複雑な事を考える。

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