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「あたしだったらみんなでお花見の方が楽しいと思うよ?貴一さんが居てくれたら嬉しいのに」
貴一さんの話に、ついそう思ったことを口にする。
(って、これじゃあたしが口説いてるっぽい!?うわっ恥ずかしい……っ)
言った後でかなり恥ずかしいことを言ったんじゃないかと自覚する。だって「貴一さんが居たら嬉しい」とか、まるきり口説き文句なわけで。
「ありがとね」
貴一さんがどこか惚けた様にそう返した。顔がどことなく赤く見えるのは、お酒のせい?それともちょうちんの灯りのせい?
(いや、あたしのせい……?)
なんて思ってしまうのは、きっと自意識過剰なんかじゃない。
■ □ ■ □
屋台で買ったごはんを食べ終えて、その後は公園の周りをぐるっと散歩して桜を眺めた。それから帰る前に貴一さんに屋台のりんご飴を買ってもらった。
(りんご飴って……、なんか子ども扱いぽいなぁ)
そう思えて面白くなかったけど、りんご飴は好きだから大人しく受け取った。
ぺりぺりとナイロンの包装を剥がして、剥き出しになった赤い飴をペロッと舌を伸ばして舐める。
ねっとりとしたりんご飴の独特の甘さが口いっぱいに広がった。
「美味しい?」
「はい」
「それは良かった」
貴一さんがへらりとだらしない顔で笑う。だからなんでそんなに嬉しそうにするのかと思って、気恥ずかしくなる。
「……きーちさんって」
「ん?」
「あたしのこと甘やかし過ぎじゃない?」
「そうかな?そうかもね」
くすくすと貴一さんが綺麗に笑う。
貴一さんはおじさんの癖して妙に色っぽくて、ドキドキしちゃう。
「これでも結構頑張ってるんだ」
「え?」
「飽きられないようにね。奈々ちゃんからみたらおじさんだから僕」
「〜〜っ」
貴一さんの言葉に一瞬息が止まる。びっくりして心臓がドキドキしてて、顔が熱くなる。
「な、なにそれっ、口説いてるの?」
鈍感なお子様なふりしてそう返す。
無意識に、りんご飴の棒をぎゅっと握り締めていた。
「そうだね。そうかもね」
なんて貴一さんが呟く。
ますますドキドキが止まらなくて、胸の奥がぎゅうっとなる。