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そうして、初めての夜はお互いのことを話して過ごした。たくさんお喋りしたおかげか、最初に感じていた不安や緊張は随分和らいだ気がする。


(古川さんて、良い人……)

用意して貰っていたお部屋の一人分のベッドに体を埋めながら、隣の部屋で寝ている古川さんのことを考える。

良い人でよかった。ほんとうに。
優しいし、面白いところもある。
歳の差とか気にしないで話すことを許してくれたり、私を年下の小娘だといって見下したりもしない態度がすごく嬉しい。

許嫁の相手が古川さんで本当によかったと、心の底からそう思った。

婚約者とか本当に嫌だったのに、そんな風に思ってしまう自分を少し不思議に思いながら眠りについた……。





■ □ ■ □


翌日の日曜日は、古川さんと一緒にお出掛けをした。

最初は、古川さんのマンションから学校までの道を案内してもらった。
マンションから学校までの道のりはあたしの家から通うより近くて、通学は便利そうだと思った。


帰りには町をぶらぶらして、マンションの裏側にある下町の商店街で昼食の食材を買い出しをした。

メニューは古川さんが好きなカレーを作ろうと思って、お肉屋さんと八百屋さんで買い物をした。

そのどちらのお店でも、古川さんと親子に間違われてしまった。


「おやまぁ、お父さんと一緒に買い物なんて今時珍しいわねぇ」

仲良しなのねと、八百屋さんのおばちゃんに勘違いされてしまって。二人でこっそり笑い合った。


実は婚約者なんです。

なんて、誰にも言えない秘密の共有がなんだかとても楽しかった……。




「カレーは甘口派?辛口派?」

「うーん、辛い方が好きかなぁ……」


ルーを買う時に辛さの確認をする。


(そっか、古川さん辛口派なんだ……)

心の中でメモ。

昨日あんなにいっぱい喋ったのに、まだ知らなかったことを知れたことがなんとなく嬉しいと思った。


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