1641
■ □ ■ □
恋してるかも。
そう自覚してしまうと、古川さんとの同棲もドキドキと緊張の連続だった。
古川さんがたらしなせいもあるけど、ちょっとした仕草や言葉にドキドキしっぱなしなわけで……。
「古川さん、お帰りなさい!」
「ただいま……。わざわざ起きててくれたの?」
「た、たまたまテレビ見てただけですっ!」
古川さんがお仕事で帰りが遅くなった日。一目でも会いたいと思って、私も頑張って夜遅くまで起きていた。
勢い良く出迎えたのは良いけれど、古川さんを待っていたなんて恥ずかしいから悟られたくなくて、つい可愛くない言い訳をしてしまう。
「そう。夜更かしもほどほどにね」
私の気持ちを知ってか知らずか、古川さんはふっと柔らかく笑って私の頭をぽんとひと撫で。
その些細な仕草に、ぎゅっと胸の奥が幸せになる。幸せなのに、泣きたくなるような、不思議な心地がする。
「古川さん、ご飯どうする?」
遅くなるって連絡は貰ってたけど、一応古川さんの分のご飯も用意していた。
「ありがとう。せっかくだし、頂くよ」
「じゃ、温めるね!古川さんは座ってて!!」
古川さんをテーブルへと促して、私はキッチンに入る。
(古川さん、お仕事忙しいのかなぁ……)
料理を温めながら、ふとそう考える。
一緒に暮らしててもお仕事の話は全く話してくれないから、私はなにも知らない。
話してくれないのは、きっと私に気を遣ってるからで。私が世間をなにも知らないただの女子高生だからだ。
つきんと、胸が痛む。
(きっと……古川さんの奥さんになる人っていうのは、仕事の事とか話せて、一緒に支えられるような人で……)
そこまで想像して、気付く。
古川さんの奥さんになる人って、私じゃないんだって。
いくら家同士が決めていた婚約者だって言っても、私じゃ釣り合わない。一目瞭然だ。
(せめて、もう少し早く生まれてればなぁ……)
そんな、どうしようもない事を考えて溜息が無意識に零れた。