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「なーんてね。……ちょっとは危機感、わかってもらえた?」
そういつもの軽い口調が聞こえたかと思えば、ぱっと体を離された。
「〜〜っ」
古川さんにそう悪戯っぽく笑われて、私は恥ずかしいやら悔しいやらで声が出なかった。
たぶん、顔はとっても間抜け面してると思う。
「も、もう寝る!!」
「はーい、おやすみ。ちゃんと歯磨きして温かくして寝るんだよ。明け方冷えるから風邪ひかないでね」
ばっと体を背けて、悔し紛れに寝ると言って逃げると、後ろからそんな楽しそうな声が上がる。
(完璧に子ども扱いされてるっ!!)
やっぱり古川さんには敵わない……。
■ □ ■ □
それからの生活は、古川さんがなんだかんだと私をからかってくることが多くなった。その度に、ドキドキしたり嬉しかったり、悔しかったり……私の心は忙しなく翻弄される。
あの子ども扱いも相変わらず多くて。
仕返しの意味も込めて、開き直って甘えてみたこともあったけれど、逆にうんと甘やかされてしまい私の方が恥ずかしくなってしまったので仕返しは失敗に終わった。
(ほんとに、古川さんには敵わない……)
そんな風に思いながら過ごして。
気付けば、もう5月の最終週となっていた……。
「この同棲、今月で終わりになったから」
古川さんから思いも寄らないことを告げられた。
「今月、で……?」
一瞬。古川さんがなにを言おうとしているのか、理解できなかった。
思わず聞き返してしまうと、古川さんは特に変わった様子もなくていつもの調子で答えた。
「いつまでも未成年のお嬢さんと一緒に暮らすわけにもいかないしね。それに、家事とか手伝ってもらってて奈々子ちゃんも落ち着けないでしょ」
「……っ」
もっともな理由を並べられて、言葉が詰まる。私が落ち着けないって言うのは全然違ったけれど。
「……どうしたの?奈々子ちゃん、淋しくなった?」
黙り込む私に、古川さんがいつもの調子でからかってくる。淋しいなんて、もんじない。この世の終わりみたいは気分だから……。
それに、今月までと言っても……今月はあと数日しか残ってないのだから。
突然すぎる別れのタイムリミット。
「さ、淋しくなるのは、古川さんの方じゃないの……?」
つい、いつもの様に強がりを言えば、古川さんは「そうかもね」といつも通りに笑った。