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大きめのホーローのお鍋に、グツグツに煮込んだビーフシチュー。
(二人分だと少し量が多かったかな?
でも余ったらドリアとかオムライスに使えるからいいかも……)
なんて、頭の中では次のレシピを思い浮かべながらシチューをかき混ぜる。
「いい匂いだねー」
そう言いながら貴一さんがのんびりとキッチンに顔を出した。匂いにつられてとか、動物みたいでなんだか可愛い。
「奈々ちゃん味見した?」
「これからするとこ」
「奈々ちゃんが味見したら、そのままチューして味見したい」
「なっ!?あっ、アホかっ!!」
エロおやじの妄想だだ漏れな貴一さんの言葉に、思わず真っ赤になる。からかわれてるとは自覚してるけど、やっぱりどうにも恥ずかしい。
チューなんて言われたら、この前のキスを嫌でも思い出しちゃうし。
「えー?だめ?」
「可愛く聞いてもダメ!ていうか可愛くないし!おっさんだし!!!自分の年齢自覚して下さい!!」
「厳しいな〜、奈々ちゃんは」
クスクスと貴一さんは愉快そうに笑う。
悪戯っぽくペロッと舌を出す仕草がちょっとエロくてドキドキした。
「……じゃあ、味見じゃなくて、奈々ちゃんとキスしたいな」
さらりと。相変わらずの甘えた声で貴一さんがそんなことを言った。
そして、言うと同時に体を抱き寄せられる。そのまますっぽりと私は貴一さんの腕の中に収められてしまう。
「〜〜っ。じゃあってなんですか、じやあって、ついでみたいな……」
「ついでじゃないよ。奈々ちゃんと、キスしたいです。ほんとうです。」
せめてもの抵抗で言い返す私に、貴一さんは小さい子に言い聞かせるみたいにゆっくりとそう言った。
ぎゅっと、抱き締める腕に微かに力を込められて抜け出せない。
「嫌なら、逃げて」
貴一さんが囁いた。