1641
(ずるい……)
私が逃げれるわけないのわかってて言うんだから。貴一さんは本当に狡い大人だ。
動けずにぎゅっと固まる私に、貴一さんはクスリと小さく笑んだ。
そうして、そっと頭に手を添えられる。撫でるように。捕まえるみたいに。
そのままコツンと、おデコとおデコがぶつかる。
柔らかい貴一さんの髪の毛がかかるくらいに顔が近くて、すごくすごく恥ずかしい。それなのに、恥ずかしいのに、眼が逸らせなかった。
貴一さんの眼が、とても綺麗だったから。
「逃げないんだ?」
「きーちさんが……、
離してくれないからだよ」
そう言い訳すると、貴一さんはまた小さく笑った。微かな吐息が鼻にかかって、目眩がしそうなほどくらくらしちゃう。
(キス、されちゃうんだ……)
そう思った時にはもう唇が触れていた。
初めは、そっと触れるように。
それから、啄むように何度も。何度も。
そうして、
ぬるりと喜一さんのが私のなかへ侵入してくる。
ゆっくりと、探るように。
どんどん深く、深く。奥まで。
「……っん」
コーヒーの匂いがした。
抵抗なんてできなかった。