1641
「……っふ、あ、んぅっ」
自分の声じゃないみたいな、甘ったるい恥ずかしい声が自然と零れ出る。
貴一さんとのキスは、
怖いくらいに気持ちが良かった。
甘くて、熱くて、ぐずぐずに溶かされてしまいそう。
唇が離れた時に、つっと繋がった銀色の糸を貴一さんがぺろりと舐める。
息も絶え絶えな私とは対象的に、貴一さんは余裕たっぷりな表情だった。
「奈々ちゃん、可愛いね」
ちゅっとまた啄ばむ様にキスされて。キスの合間にそっと甘く囁かれる。
(貴一さんの声、エロい)
それだけで、私は恥ずかしいくらいに感じてしまう。
もう足に力が入らなくて、崩れ落ちそうになる。そんな私を抱き上げるように貴一さんが支えてくれる。
「なにもしないからさ。今日泊まっていかない?」
ぎゅっと抱き締めながら貴一さんが言う。
(なにもしないとか、説得力ないなぁ)
ぼうっとする頭でそんな事を思う。
「着替え持ってない」
「これから買いに行こう」
「お金ない」
「おじさんが出します」
「それ、ほんとに援交」
「奈々ちゃんの美味しいシチューと物々交換なのでセーフです」
ささやかな私の抵抗も、貴一さんの言葉で逃げ道をすべて塞がれる。
「帰したくない」
なんて言葉で、私はまんまとたらしこまれてしまうわけで……。
「どうしようかなぁ……」
もったいぶってそう呟く。
本当は、今日貴一さんちに行くとママに伝えたら「泊まりになっても良いよ」と冗談混じりの了解は貰っている。ついでに「避妊はしっかりね」とも言われていたり。
すぐに頷いても良かったけど、それだとがっついてるみたいでなんだか恥ずかしいので返事を少しだけはぐらかしてしまった。
(あたしって、こんなにしたたかだったけ)
「……でも。シチュー、美味しくないかもだよ」
「……それは、"味見"して確かめなきゃだよね?」
三度目のキス。
"味見"をしたビーフシチューは、
とてもとても美味しかった。