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「申し訳ございません。窮屈でしょうがもう少々ご辛抱下さい」
右隣のおじさまが言う。
さっき貴一さんを捕まえる指揮をしてたリーダー格の人だ。生真面目そうな顔を少し困らせたようにして私に謝ってくる。
「窮屈だって思うならどっちか前の席座ればいいだろ」
「左右の塞いでないと社長がまた逃げるだろ」
抗議する貴一さんに、左隣のお兄さんがすかさず言う。そう言われると、貴一さんは不機嫌そうに「こいつら酷いでしょー?」と私に向かって言う。
私に振られても返事に困る。とりあえず苦笑いしか出てこないし。
「それで?休日に人んちに押しかけた理由は?」
「月曜までに承認して頂きたい書類が山積みなんです。どっかの馬鹿社長が平日でも平気で休みまくったせいで」
お姉さんがチクリと嫌味を交えて微笑みながら答える。そして、ちらっとミラー越しに私に目をやってお姉さんが言葉を続けた。
「それで?こちらのお嬢さんは?」
「んー? 僕の隠し子」
貴一さんがさらりとそんな嘘を吐く 。
と、同時にミラー越しにお姉さんの綺麗な顔が般若の如く歪んで、車がぐらりと横に振れた。
「きゃっ!?」
貴一さんの膝の上だった私はバランス崩して、右隣のおじさまに寄りかかってしまう。
「わわっ、ごめんなさい!!」
「いや、こちらこそすまないね。大丈夫かい?」
おじさまは柔らかく微笑み、そっと私に手を添えて支えてくれる。
おじさまから滲み出る良い人感。
最初から薄々感じてたけど、なんて素敵なおじさまだろう。
エロ紳士の貴一さんとは大違い。
(こんなお父さん欲しい!!)
「……なーなちゃん、しっかり捕まってないと危ないよ」
ファザコンが発症しかける私を、貴一さんはおじさまから引き離すようにして再び抱き締める。
さっきより抱き締める力が強い気するのは私の気のせいかな。
「本当にお前さんの娘なのか?」
おじさまが静かな口調で貴一さんにそう尋ねる。
「ほんとほんと。鼻のあたりとか似てない?」
またさらっと嘘を吐く貴一さん。
すると、左隣のお兄がちらりと私を見て「確かに似ていますね」と呟いた。
(いやいやいや!!似てないから!!!赤の他人だから!!鼻をガン見するなー!!!)
そう内心で慌てる私。
対して貴一さんは、否定するでもなく楽しんでる様子でニコニコ笑っているだけだった。