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結局、車の中では貴一さんの隠し子という誤解を解くことはことは出来ず。
そうこうしているうちに連れてこられた先は、貴一さんの会社がオフィスを構えるビルだった。
ビルに入ると、貴一さんはどこかに連れていかれ、私も別の部屋に通された。
通されたのは、なんだかとっても綺麗な部屋。応接室てやつ?学校の校長室みたいな。
「さ、お掛けになって下さい」
部屋に案内してくれたお姉さんに促されてソファに腰を下ろす。フカフカのソファが高級すぎてなんだか居心地悪い。
「コーヒー飲める?あ、紅茶の方がいいかな?」
「い、いえいえ、お構いなく〜」
へらりと笑顔を貼り付けながらそう返事をする。だって気を抜けば顔は引きつりまくりだろうから。
そうして、
出されたコーヒーを頂きながらお姉さんと二人きりで話をすることに……。
「自己紹介が遅れてごめんなさい。私、古川の秘書の高坂と申します」
「あ、あたし、相沢奈々子っていいます」
お姉さん…高坂さんに恭しく頭を下げられて、私も慌てて礼をする。
こういう挨拶ってしたことないから、どう頑張ってもギクシャクした動きになってしまうので少し恥ずかしい。
「奈々子ちゃんは、社長と付き合ってるの?」
「ーーっ!?」
単刀直入に聞かれて絶句。
まさかこんなこと聞かれるとは思わなかったから。だって、さっきまで私は貴一さんの隠し子って設定だったし。
そう思ってたのが顔に出てたのか、高坂さんはにこりと微笑んでこう言った。
「隠し子というのは、社長の冗談だってわかってるわ。 まあ、初めは若干取り乱したけどね……」
そう言って高坂さんは恥ずかしそうに小さく咳払い。
「それで。貴女と社長の関係は?」
「えーっと……」
再び高坂さんににこりと尋ねられ、私は視線を自然と横に逸らした。
貴一さんと私の関係……。
そんなの私だってわからない。
キスはする。お泊まりもした。
だけど、別に私は貴一さんの彼女ってわけじゃない。
ただ気まぐれに遊んでもらってるだけ。
貴一さんは私の気持ちを知っててなにも言ってこないし。だって、もし両思いだったなら付き合おうっとかって言ってくるはずだし。
キスはするけど、恋人じゃない。
……これが噂のキス友てやつ?
(って、いやいやいやいやいや!!!! キス友とかここで答えたらまずいんじゃない!?あたし女子高生だし、ヘタしたら貴一さん社会的に抹殺されかねないよね。社長さんだし、尚更……)
内心であれこれ考えを巡らせながら目の前をちらりと盗み見る。
高坂さんは、「付き合ってるなんて言わせない」という様な牽制するみたいな視線を私に向けていた。
その視線の鋭さにびくりと萎縮してしまう。
「……たっ、ただのメシ友ですよ~」
貴一さんの迷惑だけにはなりたくない。
ただの女子高生の私には、へらっと笑ってそう答えることしかできなかった。
誤魔化すように口を付けたブラックのコーヒーは苦くて。
胸の奥は少し痛かった。